コンテナガレージ

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あちこち、テンテン 8-1

 二時二十二分。文字の羅列。デジタルの表示は三つの揃った数字を毎日一から五までをカウント。必然でも偶然でも、何かの予兆でも、まして研ぎ澄まされた勘ではまったくない。業者だろうか、ドアベルがお客の入店を断る時間に鳴った。
「ただいま戻りました」館山である。両腕に大きな袋。近くの高価格帯の食材を扱うスーパーの名が茶色の紙に刻印。腕にも本屋の青い袋をぶら下げた館山である。それら一体を彼女のスペース、前任者が残したピザ釜が鎮座する表に面したガラス張りの一角になだれ込むように乗せた。
 店主は尋ねた。「どうしたの、それ?メニュー開発のため?」
「今週分の食費が全部飛んじゃいました。これで逃げられません」悲しいのかうれしいのか、笑っているようで泣いている館山である。
「店の食材とごっちゃにならないように、それだけは注意してね」店主はその言葉を言った傍から彼女には関心を示さない態度で仕事に戻る。店は、ホールの国見蘭も休憩に入り、五分前には小川安佐もおなじく休憩に入っているため、店内は店主一人だけであった。
「今、忙しいですか?」食材をキッチンに並べる館山が尋ねた。
「忙しいといえば、忙しい」
「料理はお客さんのために作ると、店長はいいましたけど、それは私の好みや味付けを無視しろ、という意味ですか?考えるたびに答えに自信がもてなくて……」
 天井を仰ぐ店主はたっぷりと間を置いてから返答する、スープのBGMがコトコト流れる。「無視ではない。全面に出す必要性がないということだ。誰のために作るのか、食べる人物を思い描けば、必然的に料理のぼんやりとした輪郭は浮かんでくると思う。何もでてこないのは、考える方向性あるいは、考えることそのものが身についていないのだろう。一編にすべてをうまくこなせないのだったら、その工程をひとつ減らしてはどうだろうか?」
「減らす?」
「そう、つまりは大前提の、誰かのためのメニューを考案するのさ。おいしいとか見栄えとか、味とか、昨日のランチとは、この際二の次にして」