コンテナガレージ

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あちこち、テンテン 8-4

「別人だったのでしょう」店主が即答する。興味を示す様子は微塵も見せない。
「黒い傘、赤の斑点、緑のコートをまったく無関係の他人が同様の格好で同じ時間に出現しますか?」熊田は試すように早口でまくし立てる。
「別人ではあって他人ではない。示し合わせたかもしれない。緑のコートと黒い傘と赤い斑点はまったく同一のものであると確証はなされているのでしょうか?」
「いいえ。ただ、事件は報道されている、関係性が認められるなら、被害者およびそれに類似する格好の知り合いを知る者から、事情が打ち明けられるでしょう」勢いの強まる雨に館山は開けたドアを閉めた。腕を組み彼女は顎を上げてじっと熊田を睨みつける。
「他人にかまけている暇がなく忙しい。人は案外ドライな生き物です。特殊性を帯びた関係性ならば、学校や職場の人間に趣味や嗜好性を知られたくはないはずです。警察に出向くと、執拗に咎められ、いわれのない拘束で翌日の生活に支障が出ないとも限らない。そこまで計算しているとは思えませんが、人が死んでいると報道されたのであれば、そういった考えが思い浮かんでもなんら不思議はない」
「やはり」熊田の口元がいびつに片方だけ持ち上がる。「どちらで物事の考え方を学びましたか?」
「質問の意図がわかりかねます。個人的な質問に答える義務はないと存じます」
「そうですか、白を切るつもりですか。詮索はしません」
「いいかげんにしてくれます!?もうお帰りください!」館山が熊田の肩口を押す。
「では、最後にひとつだけ。これでもう本当にお暇します。立体駐車場の床に赤いペイントで文字が書かれた現場を、携帯で撮影した画像がネット上のサイトにアップされていました。亡くなった少女が所持していたペイントとの照合はこれからで、まだ管轄の許可は下りていない、そういった状況です」
「話が見えません。それを私に話してどうしろと?」店主は大げさに肩をすくめた。
「何かご意見を?」片側、熊田の眉が引きあがる。
「一線を退いた名ばかりの会長ではないのですよ」
「その言い回しも、うん、似ている」
「どなたかと私を重ね合わせているようですけど、家族はいません」
「お答えは?」
「言えば帰ってくれるでしょうか。もう五分も作業が中断してます。時間はどなたにも平等に流れてる」
「はい、意見がいただければすぐに帰ります」
 店主は短くため息。「亡くなったのも少女で、立体駐車場に現れたもの少女という認識でよろしいのですか?」
「はい」
「監視カメラなどの時刻と映像の証拠は残されていないでしょうか?駐車場では万が一の事故やトラブルや盗難、不法侵入などに備えた対策を講じていると思われますが」
「映像にはおっしゃる通り、残されています。しかし、フードを被っていたために顔は確認できません」
「解像度の問題ではなくて、そもそも顔が映らなかった?」
「はい」
「カメラの位置をあらかじめ把握していたのならば、計画的にその場所に登場した。つまり、そこにいて顔が映らないように振舞った。しかし、姿は存在はその時刻に駐車場にいたことを示したい。亡くなった方はどのように発見されたのでしょうか?」
「うつぶせの状態で道に寝ていた。当初、周囲の歩行者も何かのパフォーマンスと理解して近づかなかったのですが、あまりにも長い時間寝ているために声をかけると息をしていませんでした」