コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

あちこち、テンテン 8-5

「死因は?」
「これはオフレコでお願いします。あなたもよろしいですか?漏れれば、情報漏えいで罪に問われるかもしれない、聞かないという選択肢もあります」
「心配いりません。彼女にはもっとやるべきことが山積してます。噂話に興じる余裕などないはずです。そうですね?」
「あっ、はい、ええ、……大丈夫、だとは思います」慌てて館山は激流に飲まれたように店主の浮き輪に手を伸ばして安易に返答をしてしまう。
「銃で撃たれていました」熊田が重く話す。
「入射角は?」店主が即座に先を促す。
「さすがに回転が速い。ええ、それが下から上に向かってです」
「正確な角度は?」
「十五度から二十度の間と思われます」
「寝ていたのは自ら寝たのか、それとも銃で撃たれ、うつぶせの状態へ移行したのでしょうか?」
「そこがはっきりとしないのです。伏せるまでの行動が怪しくて、蛇行したり急に立ち止まったりと行動の規則性が認められませんでしたから、目撃者もパフォーマンスだと思っていたようで、不自然に顔から地面に崩れ落ちたとは言っていない。もちろん、銃で撃たれたという証言はこれまでもたらされていないのが現状です。射撃音を誰も聞いてはいません。繁華街ですし多少周囲の雑音で紛れてしまったとも考えられます、吸音装置ですね。しかし、額の中心からやや左を貫通した弾痕から推測するに、少女とはかなりの近距離で接触がなされた。ただし、彼女が倒れるまで至近距離に接近した人物の確認はもたらされていません。少女の行動をつぶさに観測したのではありませんから、倒れた後に駆けつけた人物が額を打ち抜いたのかもしない。分からない、ということが大前提を占めている状態ですね」
 刑事の質問の意図は、小出しにすることで事件への関心を僕に引き寄せるつもりだろう。店主は刑事の計略を読み取る。しかし、ここでつっぱねても彼はおそらくまた足を運ぶ、その場面が浮かんでくるのだ。
「要するになにも解明されないのですか。それでのこのこ私に意見を求められる神経を疑いますよ。通常ならば明らかになる事実なり、データなりを明示し、ここまでは捜査で判明し、どうしてもこの先がわからない、だから教えて欲しい。これが助言を求め方。しかし、あなたは丸投げだ。何も知らない、わからない、調べている段階、調査中であるからと言い訳を取り付けては、私に謎の解明を促す。とても、他力本願ですね。もしも私が答えたことが真実であり、それによって捜査が一早く終わりを向かえたとしても、私には何の特にもならないですし、答えなかったら先ほどのように意見をどうかお願いしますと言われる。選択権はありませんね、私には。不誠実な中で紳士に答えてよいものかどうかも悩みました。けれどもおそらくあなたはまたこの店を訪れるでしょう。暇な時間を見つけてあたかも近くを通りかかったとそれらしい嘘を口にしてね」