コンテナガレージ

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がちがち、バラバラ 1-1

 昨日の正午過ぎ、S市中心部の通りで北西大付属小学校に通う九歳の少女が死亡しました。死因について、警察からの詳しい発表はありません。繁華街に近い場所で小学生がなぜ、平日の昼間に現場にいたのかについても不審点が残るといえるでしょう。さあでは、続いてはスポーツです……。

 

 不可思議な事件の現場は深夜のニュース番組でトップを飾っていた。午後には快調に進んだゲラの構成が終了し、目下の仕事は新作の執筆を残すのみとなる三神であった。逼迫する状況が創作意欲を掻き立てるのは、ある意味では影に追い詰められ逃げ場のない心境によって仕事以外の意識を阻害する作用が働くためであると思う。締め切りをきっちり遵守する作家も一握りではあるが、存在はすると担当編集から聞かされた覚えがある。間接的に、私に締め切りを守れとの戒めかもしれない。いいや、今思えば確かにそう聞こえる。遠まわしのやさしさだったのか。改めて感謝。手を合わせる。

 ダウンライト。生活は本が売れて以来劇的に急上昇、日々の生活費には困らないほどの収入を得ている。あくまでも客観的な観測である。テレビを消した。自宅での仕事は億劫。誘惑に負けない作用を施しながら、目を閉じ、昼間に書き残したシーンを呼び出した。室内、中央に立ったままだ。カーテンは開き、外からは丸見え。しかし、高層階の部屋を覗ける建物は近隣には何一つない。キャッシュで購入した決断、その思い切りの良さには感服する。これほど大胆な自分が潜んでいたとは夢にも思わない、三神である。野心というか、まあ作家で今後二十年ほどは食べていくつもりでいたのであるが、取り組み初年度早々にシリーズモノの作品が好評を得たのだ。とりたてて、斬新さや異常さを狙った作品ではない。ありきたりな主人公とそれと取り巻くサブキャラが登場するミステリーである。驚かせるトリックはまったく登場しないし、超能力も天才もヒントをくれる動物もまるで出演はなし。現状で描かれる、見聞きした他人が書く登場人物を登場させないというコンセプトでそもそもこのシリーズを書き始めたのだった。だから、もちろんありきたりなのだ。ただし、その変哲もない普通さゆえに読者はそれぞれの人物像を重ね、想起し、膨らませて物語を想像したらしい。出版社に寄せられたファンレターの大部分が、好意的な内容で、残りの二割が酷評を謳っていた。しかし、考えても見ると二割しか体に合わなかったというのは意外な結果である。もっとさらに批判を浴びると思っていた。いいや、ここまで売れるとは想像にはなかったはずだ。現状が想定の範囲外。飛躍しすぎて把握などできていないのが、本音だ。