コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

がちがち、バラバラ 2-1

 警察が訪れたのは忙しさがピークに達する午前の段階。颯爽と二人の刑事と名乗る人物が、昨日の事件について尋ねる。生憎、手がいっぱいでそんな暇はないと、言葉だけを聞くと乱暴やあつかましさが感じ取れるけれども、忙しいときとはおおよそ誰だって普段の余裕を持った態度が取れないのが一般的だ。私は弁解をしているのではない。常識の範囲内に生きている人間であると、主張しておきたいのだ。刑事の一人、女性が嫌に私に突っ掛かり、仕事の邪魔をしたかである。

「窓に塗られたペイントはあなたが落としたと、そうおっしゃるのですね?」若い、二十代前半か半ば、短い髪はルックスの高さをあからさまに誇示、本人は楽だから、そういった回答が思いつく。僻みとは異なる、美容師という仕事で培った人物の傾向の大まかな概要の把握。

「先ほどから何度もそう申し上げたはずです。あのう、私、忙しいんですけど」語尾を上げていらだった態度を匂わせてみたが、女性刑事は無反応。名前はたしか種田といったはずだ。隣の男は、熊田と名乗った。中年の男性、まばらに生えた髭はある程度の清潔感を保っている。定期的に切りそろえていると仕儀真佐子は横目で推測した。

「水で落ちたというのは、事実でしょうか?」種田が冷静な氷の息を吐く雪女のような冷たさで尋ねる。

「嘘はついていません。これっていつまでかかります?」

「私の質問が終わるまでです。どうかご理解ください」

「ご理解たって、ねえ」仕儀にブローで場をつないだ店員から合図が送られる。お客がいらだっているのだ。そのお客は、この店を立ち上げたときの第一号のお客である。前の店の担当者が私で、ひとり立ちに際して私についてきてくれた、恩人である。お客との区別は非常識な態度、常に平等を心がけなければ。だが、付き合いが長くなればそれなりの融通も利くし、こちらの要求にも甘んじて応えてくれる。大切にしなくてはいけない、見限ることはすなわち店の存続を揺るがす事態にもなりかねない。そう、あのお客は顔が広く、彼女に紹介されてうちの常連になった顧客がどれだけの数に上るだろうか。それらすべてを失う、考えだけでも背中に氷を投げ入れられたように身が引きしまる。

 種田に仕儀は伝える。「この時間でなければいけませんか?改めて別の時間帯に必ず時間を設けますので」忙しさを感じ取ったのか、刑事たちは素直に申し出に応じた。

「わかりました。では、午後にまたこちらに」種田は入り口へ体を向ける。

「いつごろですか?」ドアに手をかけた種田に問いかける仕儀、自己完結はやはり行動予測の早さによる。

「正確な時間は申し上げられません。こちらも不特定な捜査ですので、はっきりと時間を区切って仕事が完遂できるわけではありませんので。失礼します」律儀なお辞儀は、嫌味に固まり弛緩。ほんのわずかの間と、表情の崩しで刑事はかなりの好感触を人に与えられるのに……。