コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

がちがち、バラバラ 3-1

 ひっきりなしに車が吸い込まれる、忙しさは普段の倍以上。送ってもまた、車が乗り込む始末。うれしい悲鳴。宅間隆史は、かつての自分を投影したかのような、仕事に追われる人種に駐車券を手渡す。ここ数年で料金の支払いはカードから電子マネーに移行、会社に所属する人間は皆こぞってカード端末にかざし、料金を精算する。今日の車もほとんどが、現金以外の支払いである。

 一般の利用客がこなれたお客の電子マネーでの支払い場面を見つけて、端末の利用詳細を尋ねてきた。結局、そのお客は現金で支払いを済ませたが、小銭が増えないのは魅力的だと言っていた。
 車を止めてお客が向かう先は事件現場だった。既に周辺は封鎖され出入りは制限されている。近隣の商店への入店も入念なボディチェックを経た上に、店先まで警官が付き添うのだ。よっぽど、現場の保存が重要なのだろう。宅間が子供の死を知ったのは自宅に帰ってからのことだった。妻と息子は寝室で眠りについていた。

 リビングで音を消したテレビを眺め、ビールに似た格安の発泡酒を飲みつつぼんやりと映像に見入った。すると、暗がりの裏通りが映し出され、少女が亡くなったと高い声のアナウンサーが淡々と情報を語った。いつの間にかボリュームを上げてしまっていた、宅間である。地方の五分程度のニュースだった。テレビを見るつもりはなかったが、チャンネルを切り替えるリモコンは微動だにせず、昼間に出会った少女のことを思い返していた。無意識にである、まだ酔ってはいない。
「音、消してよ……、春樹が起きるじゃないの」寝室の引き戸を空けた妻が片目をつぶって顔を出した。指摘する態度はどこへやら、妻の表情は柔和だった。
「ごめん、ついうっかりしてて」宅間は慌てて消音モードに切り替える。
「なあに、今日は珍しく飲んでいるのね?やめたんじゃなかったの?」引き戸が、体のサイズに合わせて開くと、その間に小ぶりな膝が突き出る。
「うん、なんとなくね、飲みたくなって買ってきた」
「飲みたかったら言ってくれれば良かったのに。それぐらいの贅沢は許されているわ。給料が減っても私だって働いているんだから、生活はやっていける」
「すまん」
「謝るのはダメだって、約束したでしょう。会社を辞めたときに」
「クビになったんだよ」
「後悔してる?」
「……いいや」
「だったら、そんな顔しないで。会社だってずっと永久に続くわけじゃないのよ」
「君の持論だったね。終身雇用反対論」
「仕事は誰かの搾取だもん。奪い取っても、体良くすまし顔でお上品だったら許される。表と裏を使い分けられないあなたが生きていくには少々難解なの」
「反論の言葉もないよ」
「私も飲もっかな、久しぶりに」
「あれっ?アルコール受け付けなかっただろう?」
「誰かに気に入られるためにね」そういって妻は首を傾けた。側頭部が引き戸に接触
「知らなかった。だったら今まで禁酒していたってことかい?」
 妻は立ち上がって冷蔵庫を開ける。「ううん。飲めるし、おいしいと思う。それに酔うのも好き。だけど、依存はしない。なくても楽しいし、寝つきもいい。もちろん、断酒すれば、顔はむくまないし、二日酔いもない。だったら黙って飲めないって言ったほうが無駄なお金を使わなくて済む。あなただって、本当に飲みたいから今日買ってきたんだし」ゆらゆらと手にはプレミアムの冠を受けたビールが振られてた。「私みたいに」