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がちがち、バラバラ 4-2

 

「あいまいな表現だ。もっと具体的におっしゃってくれないと、返答ができません」思い当たる出来事の予兆は既に昨日に起きていた。それに数時間の異変を辿れば、おのずと答えは示される。三神は体に力を込めた。ざっと、逃走経路を確保、打撃系の体術ではないが、身を守る術は昔、家族に嫌々叩き込まれた三神である。横目で、傾斜と芝生の濡れ具合を確認する。
「今日から明日にかけてあなたには警察の人間が事情を聴きに訪れます。そこであなたは見聞きしたことを話さなくてはならない。何も見てないといえば、偽証を疑われる。また、もたらされる情報が少ないと再度思い出しを口実に警察の訪問がおそらく二度ほどあるでしょう。あなたには、あらじめ、決められたことを話してもらいたいのです。あなたが見ていようと、そうでなかろうと」
「こちらの見返りは?無償にしては代償が大きい」
「泥棒という情報を世間に流してもこちらには一切、無害」
「脅しています?」
「そのつもりです。引き受けない、その選択肢はあなたにはない」
「だったら、回りくどい聞き方をしないほうが僕みたいな人間には、好都合ですよ」
「どうしてかしら?あなたは物事に見切りをつけたがる。着地の心地よさを大前提として生きている。だから最後まで真実を隠せば、あなたは追求をしない、詳細を問い詰めないと思ったの。ご自愛のためよ」これまでにこの女性と二回言葉を交わした。一回目は、出版社近くの喫茶店だった。打ち合わせを終えた席に彼女が何事もなくかつての知り合いのように座り、突然小説のネタ、概要、プロット、それに事細かな登場人物とキャラクターの構成表を提示したのだ。後は、書くだけ。物語の流れを追っただけでも、今までにない、初対面の感動を味わえた。彼女は何者で、なぜ自分にこのような一等の宝くじを簡単に渡すのだろうか、不思議でたまらなかった。しかし、彼女はこの概要に沿って話を書く代わりに、物語にある描写を盛り込んで欲しいというのだった。彼女が言うには、ある程度キャリアを重ねた作家、男性、若くもなく年寄りでもない中世的な世代、読者層が狭く、比較的若い世代に向けた小説家、メディア露出はしていない、さらに、独身に限る人物が、私にぴったり当てはまるらしく、私の担当編集を突き止めて、声をかけたのだ。