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がちがち、バラバラ 4-4

 

 大木を迂回、三神は彼女と対面する。彼女は茶色の帽子を被っていた。
「帽子は目立つんじゃないのかな」感想が咄嗟に口にでる。
「逆。帽子を被っている人は見たけれど、どんな人だったかは覚えていないのが一般人。安心するの、大体の判断でね。銀行強盗の仮面の作用」
「警察に話す内容は?」
「あらっ?素直じゃないの、提案を受け入れるのね?」ぽってりとした下唇が小さく動く。
「まずは、話を聞いてからだ。それに……」三神は肩をすくめる。風向きが変わり、流れた。「僕に降りかかった惨劇についても詳しく知りたいしね」
「賢明な選択だと思いますよ。雨ですからね、場所移しましょうか?」
「賛成。同じ場所に長居はしたくない」
「でしたら、そうですね、車の中でお話しましょうか」
「僕はこのまま連れ去られたりして」おどけて三神は口元を緩める。雨の粒が次第に肥大。
「誰もいません。行動を起こすなら、とっくに実行しています。ためらわずに」
 大きく首を縦に振る三神は、その首を進行方向に振って、帰路を示し、歩き出した。後ろから遅れた濡れた草が擦れる悲鳴のような泣き声、それに混じり彼女も歩き出す。
 ガスがかかる峰はほとんど霞み、ベールで見えない。滑らないように舗装路に出るまで、足元を注する。後ろに向けて三神は言う。「なぜ僕だったのか、前にも正確にこの問いにあなたは答えてくれなかった。今でもですか?」
「選ばれたのです。先行の理由は選択側の独断で。数名の候補者のなかにおいてあなたは開示された情報を安易に周囲にはためらって伝えないと判断しました。情報は漏れます、ただその恐れが割合として極小である、そういった判断基準です」
「小説の構想を手に入れることが目的だったとしたら、仮の話ですが、僕よりあなたを狙うのが妥当だと思うのですが」
「女性だから?拷問ぐらいだったら私も話してしまう可能性も考えないことはないです。しかし、それよりもあなたも同様の情報を持ち合わせているのならば、狙われている構想をあなたから奪うのが簡易と判断した」
「僕たちスパイ映画の配役にぴったりだとは思いませんか」
「そのような映画の傾向に、物語に深く関わる配役は最後まで生き残るか殺されるかのどちらかだと。怪我を負って戦線を離脱する抜け道は、私とあなたに、それは現在の居場所を失うことと同義。つまりは生き残る道のみを選ぶ」