コンテナガレージ

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がちがち、バラバラ 4-5

「どうしても私を加担させたいようだなぁ」
 彼女は舗装路に出ると足並みをそろえた。三神より頭ひとつ分小さい。
「……走るわよ」彼女は一言呟く。
「誰もいませんよ」
「上から降りてくる」三神は言われた先を振り返ったが、子供と大人がそれぞれ二名。興奮する子供の声がここまで届く。
「見ないで!」ささやく彼女、前だけを見ている。
「もう見てしまいました」
「きっかけを作って」
「は?」
「喧嘩のふりをするの」
「追われているのなら、簡単に捕まえに来るって、いいましたけど」
「狙っているのが単数だと誰が言った?」
「……考えたくはないが、いつかの、その、例の組織が狙っているという解釈でいいんだろうか」
「あなた、今日一番頭が回っているわ。悪く思わないで……」言った傍から、彼女の右手は三神の頬を振りぬいた。濡れた頬が水滴で若干すべったが、効果音は周囲に拡散した。三神はあっけに取られ状況を飲み込むのに必死だ。彼女は意味があって行動に移した。頬を叩いた。惑わせるためか。それはつまりは、私を追う組織なるものがまだ私を私であると認識に確定させていないからだろうか。いいや、郊外の美術館まで追跡をするくらいだ、行動に見合った収穫は期待しているだろう、と三神は思う。彼女が聞いたこともないよう怒声を浴びせる。
「だーからこんな場所行きたくないって、最初に言ったのに、やっぱりじゃない。雨が降る予報だって家を出る前に確認したのに、曇りで雨は降らないって、なによそれ。せっかくねえ、今日はねえ、休みを取って休日を謳歌しようと昨日から楽しみにしてたのにさ、もう天気が悪いだけでもテンションが落ちてるってのに、あんたの趣味付き合って来てみたら、なによ、ここは。墓石みたいなのがごろごろ草の上に転がっているだけで、これを見て何をするのよ?楽しくないでしょうが?もう、だから嫌なのよ。その辛気臭い顔もどうにかならないわけ。付き合ってあげてんの、ありがたく思いなさいよ。入場料だってただじゃないんだし、それはさあ、払ってくれたのは感謝しているけど、その、さあ、あの、うんと、ええっと、その、行きたいのはおんなじチケットでも、映画館とか遊園地とかそういったその、密着性の高い、なんていうか、二人で一緒にもっといられるのが良かったかなあって、おもっているわけでさあ、そういううちに秘めた叫びを私の行動で悟りなさいよ、馬鹿」