コンテナガレージ

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がちがち、バラバラ 5-1

 

 閑散、BGMが店内の主役に平日のランチ真っ只中において悠々と優雅にそれでいて力強く、かつ繊細に細部に響き渡る音質。店舗の契約を済ませた後にスピーカーという高価な副産物の在り処を知り、店内にプレーヤーに忘れ去られた歌姫の楽曲を初めて鳴らしたときに状況が酷似している、店主は数ヶ月前を思い返した。
「まだ捜査をしてますよぉ、もうなんとならんもんですかね。これじゃあ商売上がったりだよう。まったく、道路工事だって細々深夜に店に配慮して昼間の営業に対応しているのに。お役所仕事って言われても仕方ないですよ」小川安佐は戻ってくるなり、ぶつくさ文句と店が陥る状況の原因を手洗い専用の蛇口にて丁寧に爪の間まで手を洗いつつ、話した。通りは全面、閉鎖されており、歩行者の通行は隣接店舗の出入りしか認めないと数十分前、だから正午前に雨に濡れた制服の警官が隣の店舗から回って、口頭で決まり文句のそれを言い渡した。返す言葉を抱くな、反論の余地はない、そういう表情であった。もちろん、店主は何も言い返さない。小川安佐と館山はカウンターから身を乗り出して、いつでも警官に食いかかる準備を整えていた、出入り口で応対した店主が店内に向き直ると、二人の顔が重なる皿の上に乗り、こちらを凝視していたのだ。
 暇な店内で店主と国見蘭の態度は不変である。その国見がホールの段差から片足ずつ下ろして、応える。「事件だから、被害者の所持品が無くなっているのかも」
「無くなっているって普通わかりますかね。私の持ち物がなくなっても、蘭さんはバッグの中身を見て確信がもてます、これがないって?」
「所持品が壊れていたのよ」
「はぁはぁなるほど、するどいですね」
「片割れの捜索なら、倒れていた現場付近の今日の警察の動きも辻褄があう」
「蘭さん、冴えてますぅ」
「安佐、口ばっかり動かしてないで、手も動かしてよ」
「はぁい。でも、リルカさん、お客さんが来ないんじゃあ、仕込みのしがいが、ありません」
「店を訪れることは隕石が頭に衝突するぐらいの奇跡に近い。大々的な宣伝もしてないし、雑誌にも載せない。初めてのお客のほとんどが、通りがかりと口コミだって聞くと、来店は神がかり的な数字、天文学的な限りなくゼロに近い確率だろうね」店主はガラス窓から外を見つめていった。小川安佐はサロンで手を拭き、館山の指示を受けるとローストした鳥モモ肉をオーブンから取り出す。表面の香ばしさが立ち上る。ペーパーで余分な油をふき取ると、またオーブンに戻す。こうすることで、表面の皮目がパリッと焼けるのだ。火は十分に通っているので、温度は低めに設定してある。昨日のデータを考慮すれば、あっという間にオーブンの鳥たちも胃袋に収まってる頃だろう。