コンテナガレージ

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がちがち、バラバラ 5-8

 食事の合間に事件の話を国見が主に聞き役で二人は会話を交わしていた。平日の昼間の事件の影響は各所に被害を持たした様相。女性の美容室もキャンセルの電話が殺到したそうで、キャンセル料を支払ってでも、断るお客の対応に追われ、予定表はすっかり今日の分だけがらりと空いてしまった。なので、この暇を利用して優雅なランチに繰り出したというわけなのだ。普段ではできない芸当であるともいっていた。だから、楽しいとも。僕は平日の人気のない時間に休むほうがどちらかといえば気が楽である。
 食事開始の三十分で自分の店の様子が気になりだすと、女性はあたふたと店を出て行った。
「道の封鎖、まだ解除されないのかな。私見てきます」女性を見送った国見が外へ出た。
「やっぱり死に方がおかしかったんでしょうねえ。うん、絶対そうですよ」ドアベルの細かい消え入りそうな音を掻き消すように小川は、午後の仕込みも終えた開放感と、厨房の圧迫感に急に苛立ちを素直に表す。彼女らしい、態度というべきか。若さという括りで一応の収まるわがままさである。
 館山は言い切る。「決め付けは良くない」彼女は明日のメニューをあれこれと思案に没頭。広げたメモ帳にアイデアを書き留めていく手法だ。彼女もまた、仕事をこなしたのちの振る舞いである。店主の怒りは当然買わない。
「私がもしも解決に導く推理を展開してしまえば、封鎖も解かれて、店にお客さんがどんと押し寄せて、それで私は忙しさに飲まれるうう」小川は首を絞める遊び、しかし誰も取り合わない。
「忙しいのはうれしい悲鳴」長い足をクロス、館山は独り言のように呟き、細かく声にならない言葉を放つ。ちらりと店主を盗み見た。店主は気づかぬ態度で明日のランチを考察、胸の前でがっしり腕組み。
「よくテレビでは修行中っていいますけど、どこから一人前なんでしょうね。修行先でも手ほどきを受けて半人前の人が、私みたいに料理を作ってお客に食べてもらっている。これは、既に一人前じゃないのかと思うんです」
「質問なのか独り言かはっきりしな。まぎらわしい」
「先輩には言ってません、全部店長に聞いてもらってるんですよ」赤い舌を出して片目をつぶる小川である。
「ああん、もううるさいからひらめきかけた構想が飛んでいったじゃない」
「メモリーが足りないんですよね」
「世間ではやはりコンテストやランク付けされたガイド本に掲載されるか、はたまたテレビに取り上げられるかのどれかだろうね。要するに、他者の評価。それも評価サイドにあらかじめネームバリューがあり、それらとの兼ね合いで店あるいは料理人の好意点にスポットが当たることによって箔がつく。一人で店を構えるもっとさかのぼれば一人で料理が作れて提供が可能となる地点が本来の一人前の意味なんだろう。だから、小川さんの考えは妥当だ」