コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

がちがち、バラバラ 5-17

「カウンターの灰皿をお使いください」

「ありがとう」カウンター、ドアに近い席に座り、足を組んで神はおいしそうに煙を吸う。「額に銃創を見止めた。その他、外傷なし。綺麗なものんだ。服の乱れ、汚れ、破損もない。寝かされた時に接地した面が汚れている程度だ。足裏の草と土は採取しておいた。行動範囲外のものが検出されれば手がかりにはなるが、……あまり期待は持つな。それと、そうだな話していないのは、なんだ、うーん、ああ、思い出した。右のポケットにレンズなしの眼鏡が入っていたなあ」速いペース、しゃべりの合間に煙が吸われる。もう半分近くが灰に姿を変えていた。「特徴的な眼鏡で、あれだと顔が半分近くは隠れる」

「眼鏡ってこう、頬の辺まで隠れるタイプですか?」館山がジェスエスチャーを交えてきく。

「ああ、そうだ」

「流行の眼鏡ですよ。十代の子がかけているのをよく見かけますよ。あまり、特徴的ではないと思います」

「そうなのか?」神は熊田に聞く。熊田は種田に聞こうとするが、視線を交わしただけで思いとどまった。

「……そういうのは、私も持ってます」小川が口を開いた。彼女が唯一の十代。

「俺が言えるのはそんなところかな」名残惜しそうにタバコを一吸い、神は中腰で灰皿に押し付ける。「管轄の鑑識に引き継いだら署に戻るよ。お疲れ」

「お疲れ様です」種田は律儀な返答。そういえば、入店の時にベルは鳴らなかったように思う、気のせいだろうか。

「あの人は、仕事から逃げている」年上に対して種田の口調は強い。

「そうだろうか。能力が高いとそれだけ、仕事が集まる。同じ給料で仕事量に違いが生じる。すると人は、怠ける。自然の成り行きだ。だからあの人はあえてさぼった格好を演じているんだ」

「退職金が頭に浮かんでます」

「ノーコメント」

 軽妙な刑事たちの駆け引きには決まった休息時間をもてない人たちの息抜きと店主は感じ取る。熊田は、灰皿を取りに段を降りる。そこでタバコに火をつけて、聴取のバトンを種田に引き継がせた。お手並み拝見、片手を体の外に無増なに話し、脇を広げる。また、俳優の仕草である。