コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

がちがち、バラバラ 7-3

 宅間は一口目を運んで熱々のマカロニを舌で転がす。はふはふ、空気を入れて熱を冷まして喉に押し込んだ。早く食べてくれと店主は言っていたが、はたしてその要求に応えられるか心配なってきた。
 取っ掛かりに苦労した宅間は、快調に食べる速度を速める。端末で一度時間を確認した。まだ十五分の猶予。五分前に駐車場に戻りたいから、そうすると後十分の格闘。忘れていた、感想を言うのだった。さらに修正。五分で食べきるとしよう。熱々。汗をかいてグラスの水を飲み干した。
 見計らっていたのか、店主が声をかけた。
「どうでしたか、熱さは?」
「熱さですか?それはまあ、熱いですけど食べられないほどではないと思います」
「水は一杯で十分か、それともう一杯飲みたい気分ですか?」
「そうですね、後グラスに半分ぐらいは欲しいですね」肝心のグラタンの味を店主は聞かない、不思議だ。味に相当の自信を持っているとは思えない店構えである、味はおいしい。宅間は店主の心理がまったく読めない。
「味の事をなぜ聞かないのかと疑問を抱いているのなら、答えは簡単です。特殊な作用を施したり、隠し味を加えたりはしていない。どの家庭でも作れる工程で調理を施しました。知りたいのは、このあたりで働く人の食事量と食べ進めるスピードそれに汗の量と補給する水です」宅間は目を丸くする。見透かされたのは昨日と今日で二回目。取り繕って笑みを浮かべてしまう。
「面白い考え方です。感心しましたよ、だから行列ができるのか」宅間は妙に合点がいった。古ぼけた外観は一旦入り、中の様子を知りえたならなじみの店としてお客それぞれが認識しやすい。また、庶民的な価格と店主の寡黙さ、提供される料理の普通さは、季節や体が自然と欲するものを店主の感覚で提供しているから、お客がこぞって来店するのだろう。店主に話しかけたい衝動に駆られる。
「あのう、昨日の事件をご存知ですか、そこの通りで起きた事件です」
「はい。警察の方が来られました」
「女の子が亡くなったのもご存知ですか?」
「そのように警察から聞きましたが、なにか?」
「私、実はその女の子と事件の前に出会いまして。これ警察にしゃべるべきかどうか、迷っています」急に相談する口調で宅間は切々と言葉を搾り出してしまう。自分でもわからないが、この人ならば解決策を見事に提示、明示してくれる、そんな思いがあったのかもしれない。