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がちがち、バラバラ 7-7

 

 刑事たちの対応の迅速さに舌を巻いた。見る間に責任者が血相を変えて姿を見せ、事のあらましを刑事から聞いている。太りすぎの体に手放せないタオル、サスペンダーのやさしさに甘える張り出した腹部を抱える責任者。鑑識の捜査に早急に取り掛かるべきだ。既に何台もの車や私たちに靴底が証拠品の塗料を踏みつけてしまっている、それに私が倒れた後に田崎がモップで水洗いを施した。かすかに残された証拠はもう綺麗に拭い取られてるかもしれないのだ。宅間は、責任者と熊田のやり取りに耳を傾けていた。
 車両の出入りを制限する、警察は一時間の限定的な隔離を提案し、責任者もそれならばと納得はしないまでも、同意して捜査が開始された。宅間に対する調査、聞き取りは入念になされないようで、二人の刑事は鑑識の捜査と結果を待つばかり。宅間への関心、興味は薄れつつあった。ただし、二度、話の整合性と再現性を確かめるためか、種田がききにきたが、突っ込んだ質問はもたらされずに開放されて、多少拍子抜けした宅間である。
 文字は原型をとどめないにせよ、見つかることは見つかった。責任者にもう一時間の延長を刑事が申し出ているときであった。宅間の証言の真偽は検出された塗料では全貌を推測するには量が少なすぎたらしい、窓口から鑑識の手技を覗き見していたら、そうきこえたのだ。
 結局、一時間半が捜索に費やされた。場所と目的が明確だったために捜査は速やかに終焉。鑑識の部隊は撤収し、進入禁止の警戒も解かれた。二組のお客が待ちわびており、宅間は丁寧な対応を心がけ、卑屈を打ち消し、申し訳なさを示した。お客は常連であるので、二回分の無料の駐車券を手渡してその場をしのいだ。笑ってはいなかったが、まんざらでもない表情を宅間は見逃さなかった。二台を送り出すと、まだ刑事が二人、向いにいる。私が夢で見た場所付近でこちら駐車場の入り口を見つめていた。見られることはあまり意識したことがない。ここへ勤めるまでは。かつての職場では、私はどちらかといえば、見つめる側の人間。高みの見物を決め込む視線を意識せずにすれ違う人に振りまいていたのだ。おろかだったとは思う。もう取り返しはつかない。この場所で、異なった目線から世間を眺めると、そういった以前の私と同類の人間は往々似して態度が大きかった。
 少女に言われた。本来の私とは今の私なのだろうか。それとも前の私、横柄な小さなコミュニティの征服者だろうか。少女は上から落ちた、落ち葉の舞い方でふうわりと。重力に任せても少女は重さがない。少ないのではなくて、調節が可能なのかも。とどまりたいときには地面に張り付く、離れたいときは空を目指す。先の先を見据えてる。天にまで昇るように、またはマントルまで落ちていくように。
 刑事たちが帰って田崎が休憩から戻る。よそよそしい態度、挨拶こそ快活だったが、告げ口の手前、心と発言のバランスが崩れてる。声のトーンも高く、細い眉毛はなんだかゆるキャラに着替える前の内部の人間に見えた。私はあえて田崎に何も言わなかった。それが私を見くびっていたことへの報復と彼は捉えるだろうが、それは彼自身の解釈。私はただ言及しなかった、それだけのこと。緊張を含んだ後半戦を終えても宅間は疲れていなかった。