コンテナガレージ

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がちがち、バラバラ 8-3

「エザキマニンというカフェをご存知ですね、あなたが良く利用している喫茶店です」
「それがなにか?」
「カフェが隣接する通りで少女が亡くなった時、あなたはその店にいましたね」
「死んだんですか?可哀想に」三神はキーボードから手を離し、上蓋を閉める。かちりと音が聞こえた。PCの横に分厚い原稿の束もみえる。
「そのときの様子を聞かせてください」
「タバコを吸ってもいいですか?」三神は革のバッグにPCと原稿を仕舞って、質問をはぐらかすような行動をとった。
「ここが喫煙席なら」
「いつも、仕事中はタバコを吸いません。集中力が散漫になりますし、タバコに費やされる動作を蓄積すると一日で一時間は損をしてる計算です。休憩に思いっきり吸うのが効率的なのですよ、刑事さん」言葉では喫煙を肯定してたが、彼はタバコを吸う際にニコチンの付着予防のパイプフィルターを装着して、おいしそうに煙を吐き出した。
 熊田は顔を横に向ける。三神が話し始めるまではその首の窮屈な角度を維持しようと心がけた。こちらの心情を悟ってくれることをおおよその想定に入れてである。
「その点については僕も思うところがありましてね、打ち明けることは厭わない。そのようには考えていました。ただ、仕事が立て込んで、ついさっき一区切りついたばかり。この場所で仕事ができるのかって顔をしてますね、原稿のチェックにはこういった雑踏のまだらな音は合う、物語の背景音に重なると仕事がはかどるんです」
「事件についてはまだ、何もお話になっていない」
「そうでしたか。事件ねえ」種田が戻ってくる、コーヒーを無言で熊田は受け取ると、彼女の着席を見計らい三神に話の続きを促した。
「何気なく外を見たら黒い傘が通りをこう蛇行して歩いてました。傘が大きくて姿が見えなかった。窓の真横に傘が到達すると、傘に赤い模様がついているのが見えました、天道虫のドットを反転させた感じかな。傘が回りだして、赤の模様が塗料のようなもので、回るたびに飛び散って通行人が逃げた。傘の周りから人が輪を描くように離れた。そこで私は、PCに届いたメールの着信にその光景から目を離した。再度、外を見ると少女は仰向けで倒れていた。おおよそ、こんな具合です。ああ、そうそう緑の服を着ていましたかね」