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がちがち、バラバラ 8-4

 また証言とは一致しない。同日の同時刻、三神の隣の席に座っていた人物、女性にも熊田たちは話を聞いていた。ここへ来る前のことである。ちょうど種田が聞きこんでる際にこの女性が自ら名乗り出てくれたのだ、私も事件のときここにいて現場を目撃したのだと。「警察」と種田が名乗った声が聞こえたらしい。その女性は、少女は突風のような風で傘が飛ばされたすぐ後に、倒れたと話していた。ただし、傘に見とれて少女が倒れた場面は見ていなかったと言うのだった。もちろん、三神の証言もまんざら不適合とは言い切れない。傘が飛んだのちの状況は少女が倒れていた場面であって、傘もそのときに手元から離れたのであれば辻褄は合う。傘も開いていたのだから、飛ばされ地面に落ち、さらに移動したことも考えられた。傘はロードヒーティングの配電盤にひっかかっていた。
「僕以外にも店にはお客がいましたが、その人には話を聞きました?」灰皿でタバコを叩いた三神は言う。灰皿には吸殻が一本入っていた。
「常連のお客でないとなかなか居所まで簡単には掴めません。三神さんとお会いできたのは、偶然です」
「あんな名刺が役に立つ日が来るとは夢に思いませんでした。あのう、こちらからの質問にも答えてくれませんか?」
「なんでしょうか」
「警察の捜査は単独では行わず常に二人以上が組となって対処に当たると聞いてますけれども、単独での捜査の場合にもし仮に事件に遭遇し、すぐに対処しなければ犯人が逃げる、または事件発生を見逃してしまうときにも、その場の判断よりも忠実に規則を守るのでしょうか」
「時と場合によります。迅速な対応というのは、事件が起きてしまった場合であって、起きる前ではそもそも迅速ではない。後手の対応です。警察の事件発生を防ぐ機能は抑止力でしか示せません。事件が起き、それを法で裁くまでの対応を任されているのが警察。二人では一人が証人になれるわけです。警察、対象者ともに事実と異なる証言を繰り出しにくい状況を作るまで。良心の判断とよくいいますが、法によるのか目先の解決に走るのかは、やはり当人次第でしょう。私とこちらの種田でも判断は異なりますよ。それで事件のときに、あなたはいつから店にいましたか?」熊田は話を切り替えた。かすかに三神の舌が鳴った。舌の音に怒りを覚えるのはなぜだろうか。動物に対してはまた、異なる作用を求める。二つの見方。