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ゆるゆる、ホロホロ2-2

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「お花、きれいね」彼女の背中に声をかけた。中腰、前かがみ。彼女は知り合いかどうかを判別するのに、しばらく間を空けた。
「知らない人とはお話してはいけません」滑らかに小さい口が動く。
「お花は誰にあげたの?」
「死んじゃった子」
「ふーん、知っている子?友達だったの?」私はしゃがむ。まっすぐ切り揃えられた前髪の下で彼女の瞳が左右にずれる。戸惑っている。
「クラスメイト。あんまり遊んだことはないの、お互いに忙しいから」
「悲しい?」
「ここにもいないの、どこにも。でも、たまに夢には出てくるからさびしくはないの」
「そう」
「おばさんも、知り合い?」
「ええ、知っているわ」
「悲しい?」
「どうかな。正直、悲しくはないのよ。おかしいんだ、私」
「泣いている子のほうが、おかしいよ。だって、泣き止んだら友達と笑っているんだもん。悲しくはなかったの、悲しかったから泣いてすっきりしたの。あの子のためじゃない。自分のため」
「あなたは、泣かないのね」
「わりと、クールに見えて人のことは考えているつもりです」少女は折りたたんだひざを伸ばした。「さようなら」少女は来た道を引き返していく。小さい傘で体は見えない。見送る傘が突き当たりで、振り返る。「泣いてもいいのよ、正直でありなさい!」大人びたセリフを言い残し、彼女は立ち去る。人の通りはぱったりとそのとき、途切れていた。雨だったからということも考えられたが、単なる偶然とも思えなかった私。
 花を手向けた彼女も亡くなった少女も私を思い出すように忠告して姿を消した。一人はこの世から抹消してしまった。もしかすると彼女とも、もう会えないのかもしれない。子供に会ってはいなかった。会いたいのかさえ、あいまい。会えない、会わない、会いたくない、嫌い、離別、錯乱、狂気、暴走、思考停止、悪循環、見失い、辟易、遮断、亡き者、無風、凪、沈降、停滞、浮上、別角度、落ち着き、受け入れ、上塗り、上書き、新しい仮面で登場。
 見たいものだけは世界と私との関係性。彼女を見送る私を誰かが見ているのだって人によって、解釈は千差万別なの、だったら取り合うのは無意味ってことでしょう。私が見たいものだってどうせぴったりばっちり違うのだ。正しさも平然と移り変わるのをためらわない。私は変わったのか、変わってしまったのか。けれど、見下す必要はまったくない。見られている今だってそう、立ち尽くしている私を私は見られないのだから、やっぱり人の見方なんてナンセンス。じゃあ、正当は何?これからのプランは?
 思いに応えることを常とする。