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ゆるゆる、ホロホロ2-4

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「その母親、亡くなった少女の母親ですが、あなたが娘を変な目で見ていた、そのように言っています」
「それがなにか?」
「あなたは自覚がおありでしたか?」
「髪はただ決まった形に切るのではなく、人の輪郭に合わせた微調整が必要です。似合う髪形も人によりけり、観察するのは私にとっては普通の行動です。店の外でじろじろ見つめたら、おかしな人ですけれど、外で顔を会わせたことはたぶんないんじゃないかしら」
 入り口に立ったままの刑事を見かねて、仕儀はソファへ誘導する。礼儀とはまた異なる最低限の情報を掬い上げる刑事の態度に映った、仕儀である。喫茶店でもお客でもないので今日はコーヒーの提供は控えた。コーヒーメーカーはまだセットしていなかった。
「お子さんは亡くなった少女と同級生でした、クラスも一緒です」私立の学校に通っているのか。相手の両親は、外見にこだわる性質だ。私がかろうじて認知の許可を取り付けたのは、中心街で店を構えていた実績が高い評価を得たらしい。
「私は娘のつながりで、その子に会ったことが過去にあるのではないかといいたいのでしょうね。しかし、店の外では先ほどもいいましたけど、会っていないのです」
「あなたのお子さんの写真を見てください」熊田は内ポケットを探り、一枚の写真をテーブルに出す。スナップ写真だ、姉妹のようにそっくりな二人が公園のベンチでアイスクリームを食べている様子が映っている。楽しそうに片方が、横を向いていた。もう一人は、カメラを意識して首をかしげてポーズをとっている。そっくりな二人、双子にも見えなくはない。
「あのう、今、私の子供っておっしゃいましたか、刑事さん」
「ええ、間違いなくいいました」
「お恥ずかしい話ですけど、どちらが私の子かはわからないの」
「左手の横顔を向けているほうが、あなたのお子さんです。もう一人が亡くなった少女です」
「えっ?ちょっと待ってください、あのう、私、もしかすると、変なことを考えているのはおかしいのでしょうけど……」情報をまとめるとさらに混乱をきたす。考えてはいけない、収束に向かってはいけないと、どこかで叫んでいる。認めたくはない結果かもしれないと思うと余計に予測が肥大する。
「亡くなったのはあなたの子供ではありません、鑑識の検査結果では、あなたのお子さんとは一致しませんでした。ただ、あなたのお子さんは行方不明なのです」こちらの思考を読み取る熊田は、さらりと真実を言ってのける。