コンテナガレージ

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ゆるゆる、ホロホロ4-1

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 店は開店を待たずに十分の繰上げを余儀なくされた。大勢押しかけたお客列が通りにはみ出し、近隣の店舗の入り口を塞いだため、仕方なく今日だけ状況に応じた。テイクアウトの会計をレジの横に据えてお客を裁く。小川安佐はレジに付きっ切り、料理は店主と館山の二人が提供する。ホールは国見が一人で回してた。まさに戦場。正午までに用意した分の百皿を売りつくすと今度は、店内で食べるお客にスイッチ、これではランチの終了時間まで仕込みの材料が切れると店主は絶え間ないオーダーを裁き、品切れ後のプランを熟考。その間もハムカツを早めに油から引き上げ、余熱で火を通す。店主が揚げたカツを国見が切り分け、トースターで焼いたパンに千切りのキャベツにその上にカツ、仕上げにソースをかける。店内ではこれにサラダとスープをつけて提供する。食事の時間を短縮したければ、列に並ぶのだが、その列が行列であるとテイクアウトの意味は成さない。店内で食べたほうに速さは軍配が上がるかもしれない、ねじれた状態が数分は存在しただろう。しかし、お客はあまり待ち時間に文句を言わなかった。やはり、コンビニの食事にはこのあたりの人間は飽き飽きしている。しかも、長時間の滞在はあまり好まない傾向。食事が意思疎通の場になりえたのは、もう過去のことだ。これからはそういった非生産的なやり取りは、削除される。
 パラパラと雨粒。小川が開きっぱなしのドア、外に向かって残りのテイクアウト個数をそれぞれ叫ぶ。最後のお客が残りのひとつを買い、今日はお開き。残念そうな恰幅のいいサラリーマンががっくりと肩を落として店を去るとぞろぞろと列が離散した。十一時半。
 店内のお客はカウンター客はもちろんほぼ一人であるからその滞在時間は短い。一定のペースで食べ進めて帰っていく。店内に雑誌や新聞は置いていないために、食事だけ後は端末をいじったり、または店主の手技を料理が運ばれるまで眺めたり、周囲のお客を何度も見つめたりと食事が手元に届くまではほかの事に注視し、いざ食事をはじめると、食べることのみに専念。隣のペースに合わせることなく、席を立つ。いっそのこと、カウンター席を増やすとランチの場合にのみ回転率は上がるかもしれない、と店主は思う。
 店主の体が微細で極端に震えた。自然現象に似た不意打ち。
 雷のようでもあり、地鳴りにも聞こえた震えが店内の建物を揺らした。一同の気配が瞬間的に重なる、一体感。通りに視線が注目する。レジの小川が、いち早くドアを開閉、異常事態の確認に急ぐ。通りが見える厨房の窓に店主と館山が駆け寄った。そのとき、店のお客の半数が、堰を切ったように店外へ飛び出す。通りでは、カッパ姿の少年が抱きかかえられ道に倒れている。道を逸れた軽自動車が標識を車体にめり込ませた状態でフロントから煙を上げ、左フロントタイヤは勢いが消えずに空転していた。店から出たお客たちはすぐさま事故車両の運転席を取り囲み、妙な一体感で運転手を引きずり出す。少年は店先の軒下に抱えられて移される。雨に濡れた女性刑事が怪我の有無を尋ねているようだ、声はかすかにしか聞こえない。どうやら、店内のお客は警察で張り込みをしていたらしい。滞在時間の長さは、第三の犯行に備えた待機であったと昨日刑事から聞かされた話を思い出す店主である。一旦、ハムカツを油から上げに戻り、火を止める。
 少年の背中に手を添えて女性刑事の種田が店に入ってきた。