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ゆるゆる、ホロホロ4-2

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「すいません、この子をちょっと休ませてください」
「どうぞ」席は十分に空いている。カウンターの席に少年を座らせて、種田は早速話を聞く。少年は恐怖か寒さで震えていた。国見がいち早く、タオルで少年の髪を拭く。種田にもタオルを渡した。
「今日はどうしてここへ来たの?」
「病院……です。いつも、通ってます」
「一人で?」
「うん」
「なぜ道の真ん中に出た?」
「ストラップ、前に、病院に行く前につけてたストラップ、落としたから、それが落ちていて、拾おうとしたら、車がきて、それで、それで……」
「わかった。もういいよ」種田はこちらに向かって言う。「店内のお客は、ほぼ警察です。勘違いさせてしまったようで、申し訳ありません」
「店長、すごいですよ、車がグシャって助手席がつぶれちゃってますう。あれっ?驚かないんですか?運転手は無事みたいですけど、なんだが皆さんいい人ですね、そろいも揃ってドライバーを助け出そうとしてるんですから」高揚した小川が身振り手振りで現場レポート。
「全部警察だよ。それで運転手が事件の犯人」店主は端的に小川には伝える。
「事件?事故の間違いですよね?」
 種田が間髪いれずに述べる。「一連の殺人事件の容疑者です」
「うそお!?」
「安芸、声が大きい」ぐっと両手で小川は開きっぱなしの口を塞ぐ。彼女の横を種田が音もなく通過、ベルが鳴って外がドアの空間だけ映し出される。額の血が生々しい、女性である。髪にべっとりと血が張り付いていた。かろうじて歩く姿、寒空に合わせた秋らしい腰に絞りのついたコートは女性的な柔らかさを隠し、男性的な攻撃性を追加、ただ表情は笑ってもなく怒ってもなく、フラットな印象であった。ランチを食べていた警察たちは各自担作業にて現場を封鎖、規制、交通整理に忙しい。少年は抱かれ、警察手帳を見せた女性が連れて行った。
 外の騒々しい非現実とは対照的に店内に残るお客の一部は粛々と自らの生をきわめて誠実に自分に向けて食料を補給、午後の活動に備えていた。
 会計の済んだお客は順次、警官に付き添われて規制区域外へ、歩道の端を歩かされ押し出されるようにテープの外側に誘導されていった。最後のお客を見送ると、店内の広さは人一倍だ。警察がお客のふりをしていたことが要因かもしれない。夕方には軽自動車は撤去されて、現場に流された血も綺麗とはまではいえないが、注意深く観察しなければわからない程度の色合い、小川安芸の野次馬根性の報告であった。衝撃的な現場は夕刻に綺麗さっぱり元の通り、朝と遜色ない風景を見せていた、唯一の違いは、標識の支柱がくの字に曲がっていることぐらいだ。日が暮れそうな時間に外に出て空気を吸う、雨上がりの茹だるような暑さに別れを告げた。