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ゆるゆる、ホロホロ4-6

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 見限っていたのは私のほうで彼はいつも能力を隠していた。見えないようにみつからないように取り繕ってさえいた。目立つことを恐れるふりで。本当は誰よりも多角的な視点でフクロウみたいな視野で滑らかな話し方が本来のお客の彼の素の姿。サービス精神で明るく振舞うバージョンは、彼みたいに押し込めている人々にとっては余裕でトレースした過去の通過点、できないことはないんだろう。あえてしないのだ。わからないだろうね、だってほんの少しの隙間のつなぎ目、編集点、外からじゃあ気がつくのにだってそれなりの能力は必要不可欠。私には、わかり易いように彼が歩み寄ってくれた分、誰が見ても、そうなのだと納得の彼の態度だった。
 話が逸れたね。今日の午前中に飛び込みのお客さんが入って、私が担当について、カットしたの。髪を切ろうとしたら、思い出したようにその人が髪を染めて欲しいって。髪は揃えるぐらい、髪形の大幅な変更はない、本人の了承を取って髪を切りそろえて髪を染めた。赤く。ストライプみたいに黒と赤の縦じま。赤は艶を讃えた、果物の赤に近いわね。その人はこれから娘を迎えに行く、そう話していた。久しぶりに顔を合わせるらしい、髪を通すと感情は伝達。離れて暮らす生活には懲りた、これからは常に一緒、靴みたいに左と右でひとつ、悲しくもならない、涙も出ない、強さも不必要、お金も要らない、私とあの子だけがすべて、ああ、もうすぐ、綺麗にしておかないと笑われるの、独り言も今日で終わり、まるで夢を見ているみたいだ、ああ、早く会えないかな、手を繋げるのがなりよりの楽しみ、大きくなっているのかしら、私の顔を覚えていて、願望よ、ありえない、でも、だって、やっぱり、もしかしたら、可能性はなくはないの。
 受け付け、財布から一枚の紙が落ちた。彼女にそれを手渡す。駐車場の駐車券だった。借りてきたの。たまにはドライバーだってことを自分に言い聞かせる良い機会だから、満を持して数年ぶりの試運転をまさに試したの、屈託のない笑顔。引いて開けるドアを押して何度も押してやっと引いて出て行く姿は、私とは比べ物にならないぐらい感情そのものだったわ。