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ゆるゆる、ホロホロ4-7

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 陽気な人物は運転の仕方で判別が可能。大きなクラクションの多用ならば、人が避けてくれるとまだ運転手の多くは思い上がってる。正反対、こちらが譲れば相手は引いて道を譲ってくれるのに。サバイバルの生き方とは真逆のシステムが道の規則だ。端末に夢中な女性をやり過ごすと軽自動車は唸りを上げて、アクセルとブレーキの感度は強と弱だけのようだ。ドライバーは女性。レンタカーのナンバー、わの文字。ちゃっかり窓は言われる前に空いていた。奇抜な化粧、隈取みたいな瞼、目じりの上に尾を引いた赤の彗星。アシンメトリー上着は確実に一点もの。真円の回転台へ車を導き、手のひらを手相を見てもらうかのように、皺を見せつけ下ろす。エンジンを切る仕草を慌てて止める、どうしてというとはやはり初めての利用者と推測は的中。大きな顔の半分を占めるサングラスが無造作にとられ、ドライバーが下車。同僚の田崎が車を前進させて、開いた扉に車庫入れ。利用時間を女性に尋ねた、眩しそうに通りをなんともなしに眺めている。聞こえてはいるはずだ、もう一度尋ねようとしたときに二時間、と空気を断ち切る鋭さで応えた。それには少し驚いたものです。田崎がキーを手渡す。ありがとうと、目配せ。料金は前払い、窓口で支払いを求めた。カードで支払ったのです、あまり見かけないタイプです。旅行者かもしれません、どこで何を買いどのような支払いを済ませたのか、記録として振り返るのはなら計画的な手段と取れる。旅行先の買い物は無駄に溢れているし、その購入の大半は近しい人々へのお土産。自分のものなんて旅先の名産やおいしいと味のしない空気とか。財布から一枚の写真がひらりと落ちる。窓口の隙間を縫ってひらめいた現像物がちょうど手元に。女の子。驚いた。ひざをしたたか、天板に打ち付けた。似ていた、いいやあの子だ。間違いない。見間違え?どちらだろう。ただ、一目はあの赤にまみれた少女だと言っている。錯綜した。混乱が現実の襲う。疑いの眼差し。しっかり結ばれた薄いくびる。あの子は下唇がぽってりしていた。かすかに声が、女性がしゃべっている。田崎が肩を叩いて揺する。手元の写真が鮮明に、塗料の色にピントが合っていた。冷たい手が指の腹を写真から引き剥がす。そこでやっと、スローな映像が、わずかに倍速で動き、元の位置に復帰。システムが異常をきたしたんだ。頭おかしいんじゃない、そういわれた。けれど、言いようのないいわゆる叫んで物に当たる類の怒りは湧いてこない。彼女の指摘を引き出した理由は私にあるのだ。田崎も心配している。今回の彼は、本当に案じている。休憩がかかっているのは彼にも大切な私には言わない用事を済ませるためだったと、こんなときに思いつくなんて、面白い構造体だ。写真は二人、仲良さげな少女と男が海をバックに映っている。撮影者を入れて三人で海に来たらしい。服装は長袖、たぶん秋か春。日に焼けているところ見ると秋が有力説か。
 ああ、ええ、その写真の少女が通りで起きた事件の被害者に似ていたんです。