コンテナガレージ

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ゆるゆる、ホロホロ5-1

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 一人がナプキンで口をぬぐう、もう一人がグラスの水を半分ほどに傾けて、さらにもう一人が立ち上がり、お会計を頼む。一人去り、また一人が立ち上がり、間を見計らって最後の一人が割りと申し訳なさそうな表情を携えて店を後にした。カラリ、カラン。食べてもいないのに食べる姿と味見が満腹中枢を刺激、食べましたと高々宣言してる。料理人が太っているのはそういう人が目に付くからで、割合的には痩せている人が多いだろう。僕の観測では。店主はキッチンの片付け、洗剤を泡立てコンロの部品をすべて取り外し、汚れをたわしでこそぎ取る。退屈な作業とは思わない。頭を空っぽにするにはもってこいの時間。何かに集中すればそれが単純であるほどに枝分かれしていたセンサーがひとつに集約、洗い切ればすっきり気持ちが良い。

「話しを総合しますよ」魔法をかけるように小川の人差し指がくるりと回転。

「あんた、帰りたかったんじゃないの?」ダスターをシンクの縁にかける館山は結んだ髪を解く。

「リルカさんだって、見たい番組のために急いでたじゃないですか。いつも一番に着替え終わって出て行くんだし」カウンターに寄りかかって小川はあくびを堪えた。彼女の隣では一脚だけ下ろされた椅子で国見が会計の収支を計算していた。

「お客さんを追い返すわけにはいかない、まだ営業時間だった」

「普通なら、気を使ってお客さんのほうが入ってきませんよね、店長」

「うん?まあ、そうかもしれない。だけど、そういう店は終了時刻の十分前にラストオーダーを締め切るって表示を必ずお客さんが表から見えるように店のどこかに書いている。うちは書いていない。だから、お客は入れて当然」店主はコックコートのボタンをはずす。中は、手術着のような藍色のシャツである。従業員の前でコートを脱いだのはこれが始めてかも、店主は小川、館山の視線の意味を考えて思う。

「……うんと、その、シャツじゃなくって、お客さんの話に登場した人って、あれですよね。お昼につかまった人ですね?」天井と足元に目線をずらす小川は、切り出す。

「警察に教えたほうがいいかもしれない」小川の意見に館山も賛成のようだ、彼女はまだこちらを見ている。

「どの話しにも女が出てきますし、だから車を駐車場に止めてカフェに行って、それから髪を染めたんですよ」

「車はレンタカーだったよ。レンタカーで軽自動車は珍しい」店主は呟いた。

「へえ、そうなんですか?」

「短時間、数日間借りるのに排気量の少ない車をわざわざ借りるのは理にかなっていない。それなりの走行距離を走るのだったら、小型車が最適じゃないのかな。大きさだって軽と遜色ない」

「店長、運転するんですか?」興味ありげに国見が顔を上げて訊いた。

「ああ、たまにはエンジンを動かす必要があるからね。休日以外は乗れないから」

「ようし。片付いたっと。私は先に帰りますよ、終電に送れそうだし」てきぱき国見が帰り支度。

「マジか、もうそんな時間ですか。いつもの時間だとばっかり。まずい。急がねば」

「私も着替えよう」