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ゆるゆる、ホロホロ7-2

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「関わっているからだ」

「管轄はS市です」

「送られた怪しい原稿を調べたのはこちらだからな。なんだ、聞きたくはないのか?」

「いえ、ぜひ」

 部長は事件のあらましを簡潔に不足部分は熊田の情報を付け加えて説明を施す。まず、逮捕された女性が一連の事件を引き起こした張本人で、彼女は誰にでもあるらしい不安を殺人として吐き出した。女性が狙うのは彼女の死に別れた子供が成長したほぼ同年代の子供であった。また友達は一人では足りない、喧嘩をしたら友達と離れてしまう、だから距離を保つ時間に別のもう一人の友達が必要なのだ、と彼女は主張した。動機は浮き彫りにはなったが、使用された拳銃の出所とその現在位置は彼女の口からは依然、語れることはない。頑なで、動機を語る饒舌ぶりもなりを潜めた。

 さらに熊田たちが集めた証言、目撃情報に生じたズレもあるひとつの仮説で説明がなされた。一件目の事件発生前に、目撃者が立体駐車場、美容室の店先で会話を交わしたのは、銃弾に倒れた少女ではなかったのだ。少女は複数、三人存在し同時刻、少女が倒れる通りに一人、通りの前後一本違いにそれぞれ一人が姿を見せたのだった。つまり、他の二名は銃撃による死亡の直前の少女を見たと、目撃者に錯覚させた。熊田たちの聞き取りは少女の足取り、生前の姿を重点的に追う形で進められた。ゆえに、目撃から殺害までのシーンは、一人の証言で状況が読み取れたために、そのほかの目撃者には訊ねていなかったのだ。目撃者も「通り」という名称しか用いらなかったことも履き違えた要因である。二本の通りに向かい背中合わせの建物が立ち並ぶのだから、裏手の「通り」なのか、表の「通り」かは人によって表現が異なってしまう。S駅を中心にそちら側が表という見方や、店舗の玄関口の向きが表ということも言われるのだ。

 登場した二人の少女の行方はつかめておらず、S署も捜査に人員を割いてはいない。また、二件目の被害者を事実と異なる性別で報道機関に情報を流した警察の思惑に反し、三件目の犯行は警察の発表に触発された行動ではなかった。世間への認知など彼女は疾うの昔に見切りをつけ、行動は常に自己完結。襲われた三人うち一人は少年。連れて行くには男の子も必要だと彼女は供述した。連れて行くとは、死後の世界と解釈できる。つまりは、彼女の娘が一人でいる場所に二人の友達とボーイフレンドをそれぞれ遊び相手、彼氏の役をあてがったのだ。

 さらに目撃者の証言が当該の通りを殺害現場に含んでしまったのは、彼らがその通りの飲食店を頻繁に利用していたからである。店に通ううちに通りの封鎖を自分たちが目撃した通りと重ね合わせてしまったのだ。人から聞いた話しを他で話してしまうような現象と捉える。