コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

ゆるゆる、ホロホロ7-4 ゆるゆる、ホロホロ8-1

f:id:container39:20200313143817p:plain


「あなたの指摘で事件は防げたかもしれないとは考えなかったのですか?」

「財布を拾って交番に届けたのにこちらの情報を無償で相手に晒すのを私は好まない」

「課せられた義務でも?」

「すべてあなたがおっしゃるのは結果論です。犯人が捕まらなければ私を訪ねてこないはずですから、すみません忙しいので」

「最後に」熊田は声を高めた。「もしあなたに子供がいたら、同様の心理を抱くでしょうか?」

「僕と子供はひとつではない。姿形や志向性が似ていても子供は子供。尊重するべき存在で、生死もまた独立している。仮に人の手によって故意に死がおとずれても、それはたんにもう生きてはいないという結果です。悲観も遺恨も後悔も感じない。それらにはぶつける対象が必要ですが、決して犯人に向けても解決に到底いたらない。一過性の気の迷い、感情の高まり。人はいつも独りですよ」

 

 8

 刑事の言葉、湯気の立つ厨房で店主の手際を止める手立てとは至らず、着々と日々のその人の今日の今の次のオーダーをこなす。いつも、先を考えているわけではないけれど、思いつく先が浮かぶのは確かだ。それでも、ところでなんて接続詞を使わなくても、ぽんとひらめく。つぶさに今おかれた状況を言葉を変えると言葉が不意に向こうから勝手に顔を見せてくれるんだから、どうして皆はアイディアの捻出に頭を悩ますのか正直わからなかった。思いつたときにネタを書き留めているということもにわかには信じがたい。忘れてしまえるなら、覚える重要性が低いとは思わないんだろうか。わからないことだらけ。ピザの味が変わったとお客が言っていたそうだ。複雑な工程はなるべく省いてる料理のどこに文句があったのだろうかと食べ残しのピザを食べたが、いたって普通だ。体調の変化で味覚は変わることをそのお客は知らなかったらしいと厨房では解決した。こちらの舌が間違っているとは思わない。いつも食べている。食事も極力控えていた。絶食までの壮絶な断絶ではないけれど、食事はほぼ一日一食。舌は鋭敏なぐらい敏感さを保ち続けている。添加物と砂糖にまみれた食品を溜め込んで、お腹を膨らませてはまだ粛々と体内では消化活動に四苦八苦なのに、食道に際限なく定刻に食物の流入。おいしさの前にまずは富栄養化した体内と見つめ合うべき、そこから味をどうのこうのと言うべきではないのか。決して口が裂けてもお客の前で言わない。神様ではないけれども、取り立てて波風を立てることはしない。

 事件はどうやら解決したらしい。刑事が一人、訪問。これが何よりの証明だ。