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空気には粘りがある1-2

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「二、三時間かな、詳しく調べてみないと正確な時間はわからん」ジェントルな声の響きと受け取るか地獄からの誘いの声ととるかはひとそれぞれであろう。

「そうすると、ちょうど十二時から一時ぐらいですね。誰が発見したんですか?」鈴木が手帳を開く。先に現場に到着していた熊田に言っているようだ。

「そこのホテルの従業員が仕事を終えて帰るときに見つけたそうだ」現場を少し下っていくと右手にきらびやかな看板に休憩と宿泊の文字に料金。道路から奥まった位置に建物がある。一階は車の駐車スペース。ホテルに隣接して白い一軒屋が併設されている。そちらはオーナーの家である。

「こんなに明るいのにどうして発見が遅れたんだろう?」鈴木は高い声で呟いた。

「人が少ないのはではなく、歩いていないのです。下り坂の先には駅、最終の通過後でおそらくは歩行者はほとんどゼロになったでしょう」安易に口にした発言を指摘され、鈴木は言葉を慎んだ。種田は鈴木の後輩に当たるが頭の切れ具合は熊田と同等と言っても遜色はない。普段はこの熊田と種田のコンビでの捜査なのだ。どうして自分が呼ばれたのだろうか、と鈴木は思う。

「電車の最終時刻を調べて、現場までの時間を計ってくれ。だいたいでいい。それと、夜が明けてから駅周辺で目撃の情報を探す。かかわり合いを避けた可能性も高い」熊田のきりっとした声が2人と現場に届く。眠気を抑えて出勤した者たちにぴりりとした緊張が加味された。四月はまだ寒い。北の春は六月の後半からやっと夜風に上着なしで耐えられる気候となるのだ。これで雨でも降ればより一層春は遠のいてしまう。それぐらいの危うい気温。

 死体の性別は女性、二十代前後、茶色のジャケットにジーンズ。うつ伏せ。下ってくる車からは倒れている死体に気づくのは用意ではないと思われる。右のゆるやかなカーブから死体の先に左に曲がるカーブが待ち受けている。遠くからではガードレールで死体は隠れ、近づいても一瞬しか捉えられないであろう。助手席かまたは、左ハンドルならば目に留まる可能性もないとは言えない。明るい時間帯にもし死体が現場に放置されていたとすれば、発見はもっと早かっただろう。すると、死体が置かれたのは、辺りが暗くなってからだと推察される。

 4月の日の入りは、午後六時から七時前後。この時刻から死体が放置されていた可能性が浮かび上がる。しかし、あくまでも可能性であって、目撃者の証言からの推論でしかない。もしも、死体発見の目撃者が嘘を付いていると目撃者が死体を捨てるのも可能なのである。勝手に、目撃者を容疑者から外してしまったようだ。思い込みとは、恐ろしいものである。