コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

空気には粘りがある3-2

f:id:container39:20200509131858j:plain

 熊田は行き先を告げずに車を走らせる。海岸線沿いに家の並びが海に流れ込んだ川でまだ荒々しい日本海の波が垣間見えると、川を跨ぐ橋を渡ると車はすぐに右折して石造りの建物、一軒家の敷地に止められた。

 「ここですか」車を降りて種田は呟いた。幾度か2人はこの場所を訪れていた。建物は石造りの外観、軟石を使用している。商家の蔵を思わせる作りである。2人は店内に入り、窓側のカウンター石についた。幾分、種田の表情がこわばっているようにも見える。

 「いらっしゃいませ、ご注文は?」さらりとした髪を後ろで縛った女性が注文を聞いてきた。2人とは、ある事件の関係者と刑事としての過去がある。知らない顔ではない。しかし、彼女の対応はあからさまに尻尾を振るような性格ではない。つかみ所のなさは、種田といい勝負だ。熊田はさっそく煙草に火をつけて一口吸った。種田を迎えに行く前にコンビニによって買ってきた煙草だった。

 「コーヒーを二つと、あとフレンチトーストを」種田は首を横に振る。「……ひとつで」そして差し出された水を飲んでいた。

 「かしこまりました」店内にお客はいないようだ、二階にも席が用意されているが天井から物音や話し声は聞こえてこない。海沿いなので風が強く、カタカタと窓が時折揺れた。

 「被害者は定時まで仕事をしていたようだ」熊田の両手は組んで祈るような仕草でテーブルに置かれた。

 「何時までです?」種田が聞く。

 「9時だ」

 「それから、現場に向かったとして到着時刻はおおよそ10時過ぎ。やはり、彼女は自分で現場へ訪れたのではないでしょうか」

 「そうだな、ただ交友関係も明確ではないから、一概にそうと言い切れない。現場には電車で来たのか、車か、または殺されてから連れてこられたのか」