コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

空気には粘りがある4-1

f:id:container39:20200509131858j:plain

 鈴木は昼食をコンビニの弁当を車中で食し、時間を節約して仕事へと舞い戻る。早手亜矢子の勤務先である歯科クリニックには先ほど、昼食を済ませてから鈴木は電話をかけていた。応対は受付の快活な女性のほうで、クリニックの責任者を呼び出してもらった。数分待たされて、電話口に出たのはデンタル・ゼロの院長、 である。患者を安心させる医者特有の柔らかい声である。事情は受付嬢から聞いていたようで、院長の昼の休憩に話を聞く時間が取れるこことなった。患者ありきの職業なので決まった時間に休憩には入れないそうだ。しかも、院長である。我先にと休憩には入りづらいだろうから、順々に一人ずつ時間をずらしての休憩する仕組みである。だいたい、院長が言うには、3時か4時頃には休憩に入れるとの見解であったので、鈴木はそれまでの時間を有効に使おうと一度部屋に帰り、シャワーを浴び、着替えプラスもう一晩用の着替えのセットを持って車に戻ったのだ。鈴木は割と几帳面な正確で部屋もこの年代の男性と比較すれば部屋は片付いている部類に入る。着替えは忙しい時のための予め用意していたスーツと下着の替えである。

 自宅マンションからクリニックまでは往復で1時間半。午後の交通量は昼食を終えての帰りだろうか、若干流れはゆるやかであった。食後の煙草に鈴木は信号待ちで火をつけ、つかの間のドライブ気分を楽しんでいた。事件を重く受け止めてはいない上層部の見解なのか、捜査の人員は鈴木、熊田と種田のコンビの三人でいまのところは推移している。まあ、あまり増えても捜査が思うようには進まないのも事実なので、気を使う人間が周囲にいないのは鈴木にとっては好条件である。

 青信号に変わった直後に携帯が胸ポケットで振動。車を路肩に寄せてからディスプレイを確認すると見たこともない番号からの着信である。

 「はい。鈴木です」

 「ああ、デンタル・ゼロの です」

 「ああ、どうも、ええっとどうして私の番号を?」

 「クリニックの電話に履歴が残っていましたから、そこからかけました」

 「そうですか、それでどうされました?もしかして都合でも悪くなりましたか?」

 「いいえ、そうではなくて、もうそろそろ仕事が終わりそうなので、連絡をしてみたのです。いまはどちらに?」

 「すいません。まだ、そちらにはあと20分ほどかかってしまって」車内のデジタル時計を見ながら鈴木は頭を下げる。