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摩擦係数と荷重1-1

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 「こちらです」車を道路脇に止めて、2人は現場に降り立つ。場所は、昨夜の現場から直線距離にして2キロ弱の工場地帯、人気のない道路である。道路の中央には川が流れており落下防止の柵で囲われている。片側一斜線の中央に自然の分離帯。現場は野原と歩道の境目。真向かいには食品工場と金属加工の工場。空中に引かれた黄色のテープをくぐり2人はしゃがんだ鈴木に近づいた。
 「どうしてお前がいるんだ?」熊田が尋ねた。
 「聞き込みの帰りです。無線から現場近くにいたのが私だったようで、急遽駆けつけたんです」
 「それで?」免許証を財布から取り出して熊田に渡すと鈴木が答えた。
 「ええっと被害者は女性、重田さち、34歳、住所はs市です。体には擦り傷が多数見られます。まだ、死因の特定には至っていません」
 「鑑識は交代でいま休んでいる最中だから到着は遅れるかもしれないなぁ」熊田のつぶやきに種田が反応する。
 「怠慢です」種田がきっぱりと言い切った。
 「サボっているわけじゃないだろう」鑑識をかばうわけつもりではないが、熊田はそういった。
 「一日ぐらいに寝なくたって死にませんよ」吐き捨てる種田の冷淡さ。しかし、彼女には発言の資格がある。遅刻や私用による現場への遅れは今の今までに一度もなかったからだ。
 夕方の現場は、街灯の少なさが際立ち周辺一帯の操業が終了すると、より暗さが色濃くなる。パトカーの赤色灯が辺りに定期的な押し付けの赤を撒き散らしていた。野次馬の姿も一時間少々でピークを迎えて徐々に帰っていった。
 現場に倒れていた被害者の状態は到着した鑑識の神から見識で、服の下の、表からは見えない箇所に昨夜の事件と同様の鈍器による内部破壊の痕が散見されたとの報告。誰が見ても2件の事件と関連付けて考えるであろう。しかし、刑事たちは思い込みを取り払うように隅にそれらを置いて事件との関連よりも対峙した事件へのまっさらな対処に集中する。間隔の短さと現場の距離の近さにマスコミはどうしても思い描いた犯人像と2件の関係性をおもしろくするために、関連付けるのだろう。数台のテレビカメラが数分前から現場を撮影していた。言葉を噛むことなく普段使い慣れない言葉でカメラに向かい、生放送で状況を伝えるのは記者にとっては難しいのだろう。何度も突っかかり、緊張と考えのまとまらないうちに口が動いているのだから、そつなく言葉を述べるスキルを持ったアナウンサーの状況説明ならもっとニュースに引き込まれる。
 午後10時。警察関係者のみとなる現場周辺。証拠品の捜索は現場道路の前後100メートルと草むら、川が対象となるがめぼしく犯人に繋がるものは何一つ見つからないでいた。昨夜からの捜査で熊田、種田、鈴木の3名の疲労はピークを越えて、彼らを支えるのは気力と疲れたといわないことであった。鑑識はすでに遺体を収容して戻っている。ついに、上層部が重い腰をやっとほんのわずかにだけ動かし、捜査員の増員を指示したので3人は一晩家に帰って眠る権利を獲得し、捜査は明日早朝から再開ということで一時解散となった。