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摩擦係数と荷重1-2

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 明けて翌日。午前八時。快晴、ここ数日は晴れが多いと、たったの数日のデータだけで思ってしまう熊田であった。昨夜の現場に車を止めると、窓を開けておいしそうに朝食代わりに煙草を吸う。後方からエンジン音、収束。鈴木の車である。種田も同乗している。

 「おはようございます」鈴木も熊田に釣られて上着のポケットから煙草を取り出して吸い始めた。種田が一緒であったのでおそらく車内では吸えなかったのだろうと熊田は思う。

 「早手亜矢子の聞き込みは?」車にそっと体重を預けている熊田。重たい瞼は3人ともに共通している。

 「これからです。何しろまだ朝早いですから、クリニックに行っても誰もいませんよ」鈴木は肩を竦めて言った。

 「母親からは話を聞けたのか?」

 「それがまだです。ショックが大きかったようで……。母親と早手さんの二人暮しですから、日常の彼女の行動を知る母親からの情報が事件には欠かせないは思うのです。ただ、まだ時間がかかりそうです」ため息と共に鈴木は紫煙を吐く。すると、落とした視線をぱっと上げる。「不特定多数を狙った犯行なら被害者の周辺を調べたとしても手がかりがつかめるでしょうか?」

 「無駄に終わるかもしれないなあ。けれど、被害者がどこで何をして、何時に帰り、その日はいつぐらいに自宅に到着する予定であったのかを知るのは被害者が特別その日に限って通常とは異なる行動を取ったことが証明される。もちろん、誰も予定調和に明日を生きてはいない、たまには外食やいつもとは違った道を歩いて帰りたくもなるだろう。ただし、それらを調べ、精査の後に下されて、初めて無駄と言える。まあ、本当の無駄なんてないんだろうけどな」無駄を無駄だと確定できたのは収穫には含まれないのかと熊田は鈴木に言っているのだろう。

 「すいません。単なる思いつきです、忘れてください」非を認めることは時として弱さや頼り甲斐のなさを生んでしまう。それでも、熊田は鈴木にひ弱な印象は持った試しがない。素直さとブレ続ける信念の違いが鈴木への印象を2つに分ける。

 「考え方の違いだ。あそこに生えている草はただの草、雑草にしか見えないが食べ物として食す虫たちからは食料の宝庫だとこの草むらを思うだろう。それと同じだ」

 「私にとって煙草はただの煙ってことですね」ちょうど日差しが当たるのか、種田はそろえた指をくっつけて額に影を作っていた。