コンテナガレージ

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摩擦係数と荷重2-2

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 事件か事故かまたは自殺かの区別、線引きはなされたのか。もしくは、線引き自体がそもそも捜査を混乱させているのではとも思っている。複雑に絡んだ糸が解いてみると一本ではなく二本も三本も絡み合っていた。これと似ている。決め付けての捜査はむしろ形を整えやすいが応用が利かない。普段の捜査には最適であっても、今回の事件、事故にはそぐわない。事実の積み重ねが手遅れとなる。

 カランとドアベルが鳴り、女性が入ってくる。マスターと二、三言葉を交わしてカウンターの中へ。女性はここの従業員、日井田美弥都という。前に、彼女が事件に巻き込まれた関係で何度かここを訪れるようになった熊田たちと熊田の関係。彼女は髪を後ろで括る。美弥都の袖が濡れていた。窓には水滴が付いていたが、雨の音は店内には聞こえてこない。

 熊田は煙草の灰を落として、気づく。視界に美弥都、微笑むでもなくかといって睨むでもない表情。アジアと欧州の中間あたりの顔立ちは表現の仕様がないからエキゾチックと言ったのだろう。持ち合わせていない感覚である。

 「こんにちは」すらりと言葉が伝えられる。

 「こんにちは」ゆったりとした動作で首を傾げる美弥都。狙ってのそれではなく、自然と身に着けた滑らかさがある。手先の末端だけがくねくねと動く動作とは違い、中心からリボンのウエーブのように波が伝えられている。

 「休憩でしたか?」黒のエプロンを身にまといカウンターに入いる彼女に熊田が問いかけた。

 「はい」

 「少し、お話を伺ってもよろしいですか?」美弥都はマスターに掌を向けて、その質問の回答権はそちらにあるといっている。「マスター、彼女に聞きたい事があるんです、数分だけお時間いただけませんか?」むっとした顔を一瞬作ると息が切れたように風船がしぼみ、肩を落とした。

 「いいですが、物騒な話はごめんですよ」

 「ええ、わかっています」

 「じゃあ、私も休憩にと。美弥都ちゃん、忙しくなったら仕事に専念してね」

 「はい、いってらっしゃい」エプロンのまま出ていく店長を見送り、ドアのベルが鳴ると美弥都は雑務を片付けるように素早く尋ねる。「なんでしょうか、お話って」