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摩擦係数と荷重2-4

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 熊田は美弥都が指摘した事実のみを見つめる、という言葉で事件をさらってみた。美弥都にその後の具体的な講釈を聞きたかったが鈴木の注文のために仕事が生まれてしまい、美弥都とは話せなくなった。

 鈴木のアイスコーヒーの出来上がりまでに、カウンターとテーブル席の客が帰った。また、彼女の仕事が増えていく。一階には警察と美弥都だけの空間。再び熊田は美弥都へ質問を投げかけたが彼女は笑みをこぼすだけで返答は得られなかった。10℃後半から20℃弱の最高気温はこの時期の北の春には暑すぎる気候で、夜風を気にして上着を羽織れば日中は荷物になり、かといって薄着のままだと帰宅時には後悔する。鈴木は運ばれてきたアイスコーヒーをごくごくと水のように水分補給。すでに最初に出されたお冷は飲み干していた。

 種田は美弥都の発言を回想させて、事件の概要を一から見直していた。事実。それのみを抽出し掴み取る。坂道、下り坂、カーブ、ガードレール、崖、深夜、ホテル、死体、傷、打撲、うつぶせ、クリニック、受付、紳士服、目撃。工場、川、一通、草むら、ゴミ、死体、傷、打撲、身元判明、短期間、二件目?同一犯?情報の漏洩?警察内部?犯人?男女?

 鈴木は通常よりも早めにアイスコーヒーを飲み干してしまった。ここへ来た目的の半分いや、8割が美弥都であるとあからさまにしれないように出来るだけただの待ち合わせであると装っての行動であった。もちろん、それを察しない熊田ではないし、そもそもこの店を待ち合わせ場所に指定したのは熊田であるから怒られるいわれはないと、喫茶店のアイスコーヒーの美味しさに酔いしれて空のグラスをなんともなしに眺めていた。熊田たちの目的は彼女に事件を解いてもらうためだろう。以前に、彼女も巻き込まれた事件を彼女自身が身の潔白を証明するために解き明かした経緯があって、その見事な推理を今回も頼ったのだろう。そんなことをぼんやりと考えていると、熊田が立ち上がって鈴木を見やる、どうやら帰るようだ。何度か種田に声をかけたがうんともすんとも言わない。その間に熊田は会計を済ませていた。鈴木が自分の分を払おうとレジに駆け寄ったが熊田はお釣りをもらい、鈴木からは一銭も受け取らない態度で鈴木の肩越しから種田を呼んだ。

 「帰るぞ」熊田と鈴木が入り口ドアに立ち、席に付いたままの種田を呼ぶ。現実との乖離から開放されたようで、ほんのわずかだけ事態を飲み込めない自分が生きていた。それも瞬時に引き戻す。種田は黒のカバンから財布を出して料金を美弥都に渡す。