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摩擦係数と荷重3-3

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 早手亜矢子は特に目立つ行動を普段から取ってはいなかったようだ。つまりそれは、意外な行動を取らないと彼女から事件に結びつく線はかすかなでしかない。事件は被害者からは辿れないのかもしれないと鈴木は車のシートに落ち着けて思う。空はもうすっかり暗く、人の気配は消えていた。情報を求め、熊田と種田の2人は署に戻ってきた。夕方のラッシュに巻き込まれて大幅に余計な時間を消費し熊田のイライラが増していた。車内で長時間煙草が吸えなかったのが原因でもある。署に到着すると二階に上がるなり、熊田は喫煙室へ入っていく。そんな熊田をよそに種田は、会議室へ直行する。二件目の事件で人員が増えたために会議室にはまばらに捜査員の姿。青い制服を着崩した鑑識の神がまた一番奥の席、窓側で煙草を吸っている。

 「お疲れ様です」じっと神が振り返り目線が合うのを待つ。見つめてここは禁煙だと訴えるつもりだ。

 「おつかれ様。相方はどうしたんだ?」

 「喫煙室でしか吸えない煙草を吸っています。行かれたばかりですから、今いけば会えますよ」

 「わかったよ」種田の視線に観念したのか神は煙草を灰皿押し付けた。

 「種田さんの言うことなら聞くんですね」制服の女性警官が通りすがりに声をかけてきた。神が威嚇の目を向けると女性警官は身を引いて抱えたファイルをぎゅっと胸に押し当ててその場を去っていった。

 「それで、何か用かい?あんたは、用がないとこないだろうけど」

 「まずあんたではなく、種田です」

 「ああそうだった。それで用件は?」

 「工場地帯で発見された死体についてです。身元以外の情報は何かわかりましたか?」

 「ああ。事件とは無関係だと思うが……現場に残されたタイヤ痕の一つが一件目の現場に残されていた痕と一致した」

 「大いに関係性が認められると思いますけど」

 「被害者については特に主だった新情報はない。それ以外ならと挙げてみただけだ」

 「……また被害者からは何も見えてこない」

 「君でもそうやって落ち込むんだな」

 「落ち込むのは私であって神さんではありません。どうやって私が落ち込んだと判断されたのでしょうか」