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摩擦係数と荷重4-3

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 「廊下で今さっき戻ってきた奴から聞いたばかりだ」熊田たち以外にもどうやら動いている捜査員は存在しているようであるが、種田は会ってもいないし、見てもいない。「犯人がレンタカーを借りていたと仮定を立てると、遠くからの来訪となる。現場付近にレンタカーの営業所はない。すると遠方から走行が浮かび上がり、高速の利用も視野に入る。そう読んで、近くのインターで犯行時刻の前後で同じ車の往来を調べたところ、一台の車が引っかかった」高速の利用はそれぞれの目的により下り口周辺の滞在時間は異なる。もちろんほんの数十分でとんぼ返りする可能性もないことはない。一つの可能性として、現場に死体を捨ててすぐさま高速に引き返す一例もありえないわけではない。つまるところ、本部の捜査は手当たり次第に可能性を潰す脈絡もない方針に転換されているようだ。

 「ナンバーが知れているならばどの営業所で借りたかはもうわかっているのですね」ナンバーが知れていれば、あとの行動はレンタカー会社に赴き、車の借り主を聞くだけである。わかりきったことだ。なのに、熊田の話し方はすっきりとしない、なにか不都合でもあるのだろうかと種田は瞬時に推測した。

 「その確認はこれからで、我々が引き継つぐ」

 「手柄だっていうのにおかしいですね」鈴木がまたあくびをかいて言う。

 「銀行強盗。そちらにお呼びがかかったんで急ぐ風でもなく、休憩がてら戻ってきたんだろう」

 「一応担当は僕らですからね、いくら他の捜査員が頑張ったところで直接的な評価は上がらないか」悟った鈴木の発言。

 「雑談はそれぐらいだ、さっさと行こう」

 「……あの、僕もですか?」鈴木が人差し指を自分に向ける。当然だろうと言いたげに熊田はドアに歩きながら一瞬だけ顔を合わせ、まゆを上げて顔で答えた。それに無言で追走する種田。鈴木ははあとため息をついて、疲れの抜けない体に別れを告げて重い腰を上げた。

 本日は熊田の車での移動。目的地は車が借りられたとされるレンタカー会社の営業所である。

 勇壮な作りとは裏腹で、バックヤードは簡易な作り。お客との接見の場以外は極力経費を削減しているようである。警察手帳を見せると、3人は受付横の扉から職員の休憩室に通された。給湯室とロッカーが3畳ほどの空間に詰め込まれている。最近では、薬缶でお湯を沸かすよりも電気ケトルで瞬時にお湯が沸く。その利点を最大限活用する受付の制服姿の女性が入れたコーヒーが折りたたみ式アウトドア用のアルミ製のテーブルに即座に出される。椅子も接地面の少ない丸い形の座面。鈴木だけが種類の違う、パイプ椅子に座っていた。