コンテナガレージ

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摩擦係数と荷重4-4

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 受付のもう一人の職員、店長と名のついた札を胸つけた人物がテーブルに置いたノートPC画面に指をさして言った。

 「この方ですね」車の貸出時間は午後4時、借り主は早手美咲と明記されていた。

 借り主の住所に見覚えのある鈴木が声を出した。「あれっ?これって一軒目の被害者の母親ですよね」

 「苗字が一致しただけではないでしょうか」短絡的だと言いげに種田が言う。真実を確かめる熊田が問う。

 「どうなんだ?」熊田と種田は振り返り、腰を浮かせディスプレイを覗きこむ鈴木に注目する。

 「……住所が多分同じです」人からの注目を好まないタイプの鈴木は投げかけられた同意に自信をなくすと慌てて胸ポケットから手帳を取り出してメモしていた早手亜矢子の自宅住所を見やる。「やっぱりそうです、間違いありません」もう一度画面を確かめる。「ええ、被害者の自宅です」

 「母親が送った?」熊田が呟いた。向かいわせの店長は刑事たちの動向を緊張した面持ちで観察していた。

 「たまたま用事があったのでは?」種田がその可能性を否定する。

 「現場近くを数時間前いたことは母親からは聞いているか?」熊田は鈴木に聞く。

 「いいえ、そんな話はしていないです。こちらから聞いないので言わなったのかもしれませんが、もし事件と関係があるのなら僅かな情報も我々に話すはずですよ。母親は何かを隠しているのとか?」

 「母親にそんな素振りはあったか?」刑事には特有の隠し事を見抜く能力が自然と備わっていく。ただし、人の嘘には犯罪から逃れる嘘と知られたくはない個人的な事情を隠す嘘があるのだ。鈴木には娘の死を悲しんでいた母親であるとしか映っていなかった。母親は何か事件とは無関係の隠し事があるのだろうか、鈴木は思う。

 「鈴木、母親に連絡」熊田は鈴木に指示を出すと店長に捜査協力の賛辞を述べる。「ご協力ありがとうございます。再度、別の捜査員が改めて詳細な事情を聞きに来るかもしれませんので、その時もどうかよろしくお願いします」熊田は刑事たちのやり取りに関心と物珍しさで狭い一室を遠巻きに観察する職員へ丁寧に挨拶を述べた。種田はそんな熊田の身の代わりが嫌いである。彼はもっとクールであり、そっけなくそして寡黙だ。世間ずれした上辺だけの態度は似合わない、と思っている。それは自分がそう振る舞いたくはないだけかもしれない。

 途切れていた線が不穏なつながりを呼び寄せて、レンタカー会社の家屋を出ると生ぬるい風圧に体が押されバランスを崩した。再び3人は路肩につけた車に乗り込み場所を移す。鈴木が案内役。

 熊田が信号待ちでタバコに手を付けると、素早く助手席の窓が開けられ種田の渾身の圧力を帯びた視線が放たれる。熊田は、犯してしまった罪を潔くは認めずに行き場のなくなったタバコに伸ばされた手でシフトレバーを掴んだ。