コンテナガレージ

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摩擦係数と荷重5-6

f:id:container39:20200509131858j:plain マンションと病院が角に建つ交差点を右折。下り坂を下って道なりに進む。正面左手に、H駅に隣接する大型スーパーが見えてきた。
「事務所はH駅の周辺のどのあたりだ?」バックミラーで熊田は鈴木に尋ねる。
「駅のロータリーに入ってください」道路を横切る人を待ってロータリーに侵入する。「そのまま、進んでください」車は半円を描いてロータリーを出た。鈴木は携帯を見つめて進行方向を指さす。「そこの交番で曲がってください。その先の右手の建物です」
 車は小さな交番を右手に、左折し10メートル直進。すると右手には、この地域には似つかわしくない3階建てのマンションらしき佇まいの事務所が目に飛び込んできた。車は静かに脇に寄せられ停車。
「まだ、1時間ほどありますね」囁くように種田が言った。
「他に仕事はない。待つしかないだろう」事件の議論は先程話し尽くしたので、3人には取り立てて話すべき内容の話題は底をついていた。熊田と種田は沈黙に耐えているというよりかは、自然と黙っていられるが、鈴木はもちろん一人の時は黙っているが人がいると話していないと申し訳ない思いも湧いてくる。だから、何度か天気やニュースなどの話題を二人に振っては見たが種田はそもそもテレビを見ないし、熊田も情報源としてテレビを重要視していないので、話は膨らまない。10分がたって、熊田がおもむろにドアを開けた。窓を開けて後部座席の鈴木が言う。
「タバコですか?」
「無くなったから買ってくる」くいっと顎を差し出して通り過ぎたスーパーに向けた。もう歩き出している。
「僕も行きます」鈴木が慌てて出てきた。
「タバコがないんなら買ってきてやるよ」
「そうじゃなくって、トイレです」
「ふーん」
「なんですかそれ」鈴木が開けた窓から二人の声がどんどんと遠ざかっていった。種田は携帯を取り出して時間を確認。建物はひっそりと静まり返っている。周囲がもうすでに活動を停止している住宅街の夜である。ガラスで覆われた一階、入り口ドアもガラス。取っ手も金属のようであるが薄暗く車内からではよく見えない。左脇に階段が見える。二階が仕事場で一階がクライアントとの商談スペースなのだろう。3階は住居だろうか。
 道路に建物からの明かりはもれていない。