警官と入れ違いに鈴木が戻ってきた。缶コーヒーを二人に渡す。
「スーパーって安いんですね。3本買っても200円でお釣りが来ましたよ。あれっ、どうしたんです?」
「なんでもない。遠慮なくもらっておくよ」
「私も」
「なんか怪しいなあ、もしかして二人は……」鈴木の言葉を熊田の睨みで一蹴された。そのあと鈴木は一切このことに触れることはなかった。
6時50分頃に一台のセダンが事務所の駐車場に乗り付ける。慣れた運転で駐車された。熊田も外に出る。車から降りてきたのはやはり、早手美咲、第一の被害者の母親である。ドアの音が響いて彼女が熊田たちに気づく。
「もしかして刑事さん?」
「はい、先ほど連絡したものです」熊田が手を上げて応えた。
「お声が電話の方とは違いますね」ドアをしめてカバンを肩にかける。
「電話したのは私です」後部座席から鈴木が顔を出す。種田も外へ。
「ああ、そうよあなたよね。それでお話っていうのは?」二人の顔を交互に見比べると早手美咲は改めて電話では話せない内容を尋ねた。
「道路の真ん中では話しづらい内容であることは確かです」軽く両手を広げて熊田は返答。とりようによっては多少、つっけんどんで冗談の通じない、堅物をイメージできる。しかし、母親は仕事柄、人との関わりが仕事の8割弱だと自負しているのでその点は熊田の話しぶりも気にならないようだ。
「そのようですね、すみません気が回らなくて。さあ、どうぞ、中で話しましょう」気丈に振舞っているのか、それとも娘の死を乗り越えたのか、母親の態度は作っているように見えた。頑張っているとでも言い換えられるだろう。どこか、目だけが笑っていない愛想笑いと似ている。