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摩擦係数と荷重6-2

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 加藤税理士事務所と看板の架けられているようだ、ライトアップが消えていたから近くまで寄らないと見えないのだ。階段を上り二階へ案内される。鍵を開けて早手美咲はドアを開けた。室内は30畳ほどの面積でパテーションによる区切り、机や背の低い棚が配置されている。デスクの数だけ税理士が在籍していると推察される。他の者はすでに退出していたのだろう。
 突き当たりの一部にソファや喫煙所にコーヒーメーカーが置かれた休憩場所が設けられている。3人はそこで待つように言われた。ものの数分で早田美咲が再び姿を現す。
 「それで、何でしょうか話したいことというのは?」立ったままで早手美咲は再度尋ねる。
 「単刀直入に伺います。あなたは、娘さんが亡くなられる数時間前に現場付近を車で走行していましたが、どちらへどのような用件で訪れたのでしょうか?」ソファに浅く腰を掛ける熊田がそっと両手を組んで上目遣いに母親に低い声で質問を躊躇なく投げかけた。
 「仕事です。クライアントに会いに行っていました」用意された解答をソラで読み上げるみたいに彼女は毅然と言う。
 「レンタカーに乗っていたのは?」
 「その日、車の調子が悪くてエンジンがかからなかったものですから、事務所で仕事を片付けてからクライアントの自宅まで向かうためにレンタカーを借りたんです。バスで行くは時間がかかりますし」今度は現在の考えを織り交ぜた頭のいい、話し方に切り替わったようだ。母親は、論理的に言葉を構築しながら声に変換できる能力が備わっているようで、視線を斜め上に向けらながら答えていた。それが思い出すときの彼女の癖なのだろう。
 「S駅の前でレンタカーを借りていますが、事務所近くで借りなかったのにはなにか理由がありますか?」
 「クライアントとの約束まで時間が多少あったものですから、買い物でもしようと思って電車でS駅に行ったんです。事務所から車を借りるとなると買い物の最中に車を駐車しておかなくてはなりませんからね、駐車場代も高いですから」