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摩擦係数と荷重7-3

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 鈴木が恐る恐るタバコを隅に寄って吸い始めると熊田はいつものムスッとした顔でブースを出ていく。行き先は会議室である。
 鑑識の神は泊まりのようだ。のけぞった姿勢で背に持たれて座る神がドアを開けたばかりの熊田と目があった。神の無精髭が目立つ。
「呼びました?」
「二軒目の被害者についての情報が増えたよ」
「へえ、どんな情報です?」隣に腰を下ろす熊田。広く感じるだけの狭い会議室、後方の座席。
「解剖の結果、被害者は妊娠していたらしいな。まだ3ヶ月だそうだ。もしかすると本人はまだ気がついていなったのかもしれん」
「そういう相手がいたんですね」
「恋人かパートナーか?」
「もっと言えば、体だけの関係の相手も含まれますよ」吸ったばかりなのにまた目の前に灰皿があれば熊田はタバコに自然と手が伸びしまうのだ。もう火をつけている。確認しておくがここは禁煙であり、灰皿も署内での喫煙が禁止される前の遺産である。煙を吐いて熊田は言う。「……だから言えなかったのかもしれません」
「恋人ならば周囲に紹介しても構わないが、肉体関係だけの相手を公表するのは、そういう奴もいるだろうが、わざわざ言う必要性には駆られない。被害者の身辺から恋人らしき人物は浮かんでこなかったんだろう?」
「ええ。子供が出きたので殺した、とは考えられるが連絡を取り合っていたのなら、どこかで足がつく。そう考えつかなかったと考えると、仮に犯人がその相手だとした場合、犯行は実に短絡的で稚拙。衝動的といってもいい。しかし、被害者の体に無数の擦り傷と致命傷の打撲痕。さらに、第一の事件と第二の事件の犯人が別人であると仮定すると、二件目は一件目の犯行を模倣したのかもしれない。たまたま打撲による殺害によってカモフラージュされた」
「おいおい、じゃあ、一件目の事件は誰の犯行だよ?二件目は子供の父親だとして、一件目はどうなる」
「それはこれから確かめに行きますよ」
「目星がついているのか?」ドアが開く、種田が顔を見せて熊田を探しにきた。そろそろと捜査に行こうと子供が両親に急かした訴えるような悲しくそして不満の顔で眉間が中央によっていた。
「……まぁ、まだなんと言えませんがね。なんとなくですよ」
「ちょっとまて、一件目の被害者の殺害状況は公に発表されていないぞ、もし犯人がそれぞれ違えば二件目のやつは一件目の被害状況を知っていることになる。それは一件目の犯人だという証拠じゃあないのか?」人は目をつぶり指揮者のようにタバコを指揮棒に見立ててリズムを刻む。