コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

摩擦係数と荷重8-3

f:id:container39:20200509131858j:plain
「犯人は3人だから、1つ分を分けたってことじゃないのか」相田はモニターの乗ったデスクに肘をついて言う。「それで、バッグのほかに手がかりはなにか見つかったのか?」
「いいや、まだだ。ただここから発見場所までの所要時間は高速に乗ったとしても20~30分はかかる。車によって移動したとなるとまぁ、髪の毛の一本ぐらいはみつかるだろうが、前科でもないと足取りを追う手がかりにはならんだろうな」捜査員は腕を組み仁王立ちで、うーんと唸ってしまった。大きなカラダは明らかに学生時代主に大学生の時に運動部に所属していた体育会系の容姿である。重すぎる体は、筋力から脂肪へと移行しつつある。食事量の変化は見られない。
 ドアと捜査員の隙間から、わらわらと走り抜けていく刑事たちがみえた。
 唯一の証拠に群がる。
 事件の解決が彼らの真の目的だろうか、と相田は疑いを保つ。保身や昇進のために事件を解決している意志が敏感に感じ取れる。相田にはそういった上昇志向とか地位の向上に興味が無い。刑事になったのも、ヒーローを志していたり、家族や身近な人物に不幸があったりしたわけでもない。職業の一つとして、食いっぱぐれない職を選択しただけであって、特に人一倍正義感が強くはないのである。なので、相田はどちらと言えば、走っていった捜査員たちと近い立場に位置する。それでも、持ち前のスタンスが職に就いたからといって薄れるでもなく、体内に依存し続けているのだ。仕事はきっちりとこなす。それは、まだ命の危険あるいは命のやり取りを体験していないからだろう。銃を向けられた犯人に立ち向かう自分がその状況に置かれた時にどういった行動を取るのかは、相田自身にもわからない。
 捜査員の移動で銀行内は鑑識の者が数人、作業中で警察の人間はほとんど姿を消していた。相田たちに無理やり仕事を見つけてきた別班のリーダーもいない。行員と現場に居合わせた客は全員取り調べのあと、解放された。
 お客の身元は一応全て記録してある。強盗犯の一味が現場に突入する前にあらかじめ店内の状況を伝える監視を用意していたかもしれないからである。そして、行員たちは刑事たちからの執拗な取り調べを受けている。最も行員が手引きした様子は映像からでは判別不可。しかし、事前に手引きをしていた可能性も捨てられない。あまりにもあっけなく、なんの引っ掛かりもなく強盗が行われた事実は強盗犯が用意周到であっただけでは収まらないぐらいに、鮮やかな一連の強奪劇だったのだ。もちろん誰も傷ついていない。