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摩擦係数と荷重9-1

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「各家庭に設置された防犯カメラの映像は保存されていますか?また、保存されているとすればどのぐらいの期間を遡って見られるでしょうか?」種田は熊田とともに、アートプロジェクトが加入するセキュリティ会社を訪ねていた。受付で事情を説明するとこぢんまりとした会議室に通され、数分の後に一人の男が現れた。
「通常、映像の保存は警報機やセンサーが作動したときのみです。ですから、特定の日、それも機械が作動していないと映像は保存されていません」終始謝りの態度で二人に接する。会議室には長机に、重ねられる椅子とガラスの低いテーブルにそれに艶ある背もたれの低いソファ。会議室に通された二人はしばらくどこにも座らずいた。入ってきた担当者らしき人物に促されて初めてソファに着いたのだった。
「では、こちらでは映像は保存されていないと」種田の容姿に一瞬見惚れて担当者の返事が遅れる。
「……そうですね、必要性のない映像の保存はプライバシーにも関わるので扱いが難しいのです」
「鍵をかけた時間はどうです?最後にドアに鍵をかけた時間は記録されていますか?」熊田は、鋭い目付きで担当者を見た。これは長期戦の捜査の時に見られる熊田の特徴である。相手に敵意はないし熊田自身、意識してはいないと思うが、疲れがたまると捜査からの早期の開放に邁進するあまりに、獲物を捉える目付きを誰にでも向けてしまう。そう、種田は捉えている。
「施錠は、……差し入れて回すタイプの鍵でない。カードキーや指紋認証だと情報が残っている可能性はあります」熊田の態度に気圧されていたが、解答は的確であった。担当者は一度席を外し、アートプロジェクトの事件当夜の施錠時間を調べにいった。
「電話でもよかったのではないですか?」
「こっちが警察だと電話でどうやって説明する?」電話越しにいくら警察だと言い張ってもイタズラにしか取られかねない昨今である。
「それもそうですね」種田がため息をつく。
「疲れか」座りなおして熊田がそれとなく尋ねてみる。言いたくないのなら、深くは追求しない言い方であった。