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重いと外に引っ張られる 1-6

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「……じゃあ、あなたから理由を説明してよ。私からだけでは納得しないの」彼女は四栄出版社に務める会社員で取材先から帰社する途中に立ち寄った道で死体を発見したというのだ。国道から外れたこの道を通過するのは、道沿いの住人だけだろうとはじめてこの道を通ってきた鈴木でさえも知覚できた。彼女は休憩のためとはいえ、どうしてこの道を選んだのだろうか。それにである。会社の方角を考えると彼女はO市からS市への走行であると考えられこの道に入るには一旦対向車線を越えて且つUターンほどハンドルを切らないとトンネルへと続くこの道には侵入不可なのだ。運転中、この道に差し掛かる前には寄り道をすると決めていなくてはならない。なのに、彼女は休憩のためと言っていた。すぐ先にはコンビニなどの施設があるのだ。それを知らない場合も考えつくが、休憩場所としては不釣り合いである。人のいない場所を選んだ可能性もみえるのであるが、鈴木は携帯を手に事情を話す彼女の背を眺めて考えていた。
「ですから今、代わります」彼女は携帯を差し出す。鈴木に出ろといっている。「上司です。事情は説明はしましたがまだ嘘だと思ってるようですからきっちりと説明してください」彼女の上司を聞き分けのないクレーム客を想像してしまう鈴木である。
「もしもし、お電話かわりました。はい、警察です。鈴木といいます。ええ、そうです。O署です。はい。遺体を発見したと通報が彼女からなされて、ええ、そうです。いいえ、違います。それはまだなんとも言えませんが、はい。なにぶん私も駆けつけたばかりなのです。はい、本当です。正確な時間は申し上げられません、約束になっていますので、不確定な事項に関しては言った言わないの口約束でも効力を生みますから。はい、はい。ええ、はい。では、代わります」腕を組んだ彼女に携帯を返す。
「もしもし、そうです、だから本当だといっているじゃないですか。それは朝に提出しました。はい、明日には帰れると思います、そうじゃなったら困ります。……警察に聞いていからそちらに送ります。はい」舌打ちをする人を久しぶりに見た気がした。鈴木は通話を終えた彼女にきく。
「わかっていただけたようですか?」
「ええ、納得はしてないみたいですけど、全く揚げ足取りだけはうまいんだから」切った携帯に息を吹きこむように彼女は言った。
「そうだ忘れてた。ちょっと失礼します」鈴木は彼女から離れて熊田たちへ連絡を入れた。

 佐田あさ美はトンネルを見つめている。鬱蒼と茂った木々や草に、空いた真っ黒な穴。緑と灰色と黒と空の青。どれもが原色に近い鮮やかな色味である。時が止まったような時間の流れ。視界に入るものは何一つ動かないでいる。疲れていたのは焦っていたのは、呼吸の仕方を忘れていたためかもしれない。音がなくなって、自分の息が感じられた。
 あくせく働いていた時間との戦いでは到底感じられない瞬間だと佐田は思う。
 警官が黄色いテープを引きトンネル入口を封鎖したのでまた一色、色が追加された。