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重いと外に引っ張られる 2-2

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「部長がいないのは当たり前ですから、もう慣れました。けれど一応はこの班の長なのですから何もしなくても姿くらいは見せないと……」仕事に対して自分の考えがやけに優等生のそのものであると相田自身は思っていた。口に出し、言葉として選んでみると意外と自分の考えは思っていたよりも別の側面をみせることがある。
「そうだな、尤もな意見である。しかし、私も仕事をしていないわけではないのだよ。見えないところでコソコソと動き回っていたりもするんだ」灰皿に送られた部長の視線からぐっと相田に急角度で移る。相田はビクリと体が反応。威圧でもなく、色気の類でもない。なんだろうか、暖かさと冷たさの当時攻撃のような言い表せない視線であった。
 部長のデスクは綺麗だ。pcの類も書類の紙もファイルもマグカップやペン立ては見当たらない。あるのはステンレスの灰皿だけであった。
「お前は事件を抱えてはいないのか?寝ているんだからそうなんだろうが」
「待機中です。緊急時に備えて」人の仕事ぶりを注意して自らの体裁は守ろう、取り繕うとする。「……部長は今何を調べているのでしょうか?よろしければ、ちょっとだけさわりだけでも」
「よろしくないので教えない」
「そんな、子供みたいに」
「誰にも言わないと約束はここでできたとしても、お前は誰かに話すだろうな」
「言いませんよ、約束ですから」
「秘密なんてものは、バラすためにあるようなものであって、きっちり守るなんて奴はほとんど世の中に存在しないよ。おまえだって、心から教えて欲しくて聞いているんじゃなくて、誰かに言うために聞いているんじゃないのか?」
「……それは、ええっと、はい、その、言われてみればそうです」期待に胸膨らんだ思いが部長の一言で急にしぼんでしまう。部長と目をあわせているとなぜが嘘をつけなくなる。見ぬかれている感覚が支配を強めていき、しまいには自分からハイ、嘘をついていますと公言してしまう。