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重いと外に引っ張られる 2-6

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「はい」種田が手を上げた。ペンで今度は種田が指されるとすっと音もなく立ちがある。「重田さちは、発見の前日の午後9時に勤め先の塾で授業を終えた後、午後10前後に同僚と共に学習塾を出ています。自宅は、S市で通勤は電車です。被害者の駅まで歩く姿を同僚が確認しています。また、鑑識からの解剖の結果、彼女は妊娠していたようですが、自宅からは産婦人科への通院形跡はなし。おそらくは彼女自身妊娠に気がついてはいなかったと推察されます。以上です」
「ふーん」管理監が息を大きく吐く、そして、微かに吸い込む。目をぐるりと回す。「で、また別の事件だって?」
「銀行強盗です」お偉いさんの一人が応える。
「それは後だ、次のやつだよ」
「担当は?」別の偉いさんが言った。
「私です」
「熊田、またお前か。事件をよく呼ぶよ。二件の事件を抱えてまだ足りないと見えるな?」
「いいえ、たまたま近く部下がいたのもですから、初動捜査を我々が担当しただけです」 
「まあいいか。それで、現状は?」
「まず、鑑識からの報告を聞いたほうがわかりやすいと思います」
「鑑識?神さん、どういうことだ?」
「発見された遺体に黒い液体が付着してた。全身を覆うほどの量だ。まあ、成分はエンジンオイルだ」
「鈴木さん、現場で匂いはしましたか?」神の説明が続くなか、種田は小声で隣りの鈴木にきく。
「いいや、なにも。匂いなんてそんな、トンネルのジメジメしたカビ臭い匂いは感じたけど、……オイルの匂いはしなかった」
「オイルをかぶっていたなんて報告書には書いていないぞ」報告書の束を見せるようにバシバシと叩く。
「今さっきわかったことですから報告書には間に合いませんよ」明らかに可笑しさは別種の笑顔で神が管理監の機嫌をなだめる。感情はただのエネルギーの放出なのだから、行く先を変えてしまえばいい。「それと、私もおかしいなとは思っていたんですが体表面からそのエンジンオイルの他に排気ガスも検出されています」
「排ガス?犯人の車が逃走時にかけていったんだろう」
「捜査は私の範囲外ですから。詮索はしません」
「誰も犯人を突き止めろなんて言っていない。で、他に何か報告は無ければこれで終わるが、……ないな、では会議を終了する。解散」