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重いと外に引っ張られる 3-2

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「そんなぁ、……でも重田さちの周辺には特に親しく付き合っている人物はいなかったと思いますけどね」
「お腹の子供の父親は特定できなったのか?」熊田が聞いた。
「携帯の電話帳、通話履歴にも職場の人間と両親の番号しか最近の通話記録は残っていません。電話会社に通話記録の閲覧を要請して確かめてみましたけど、履歴を消去した形跡はありませんでした。普通、友達とかに夜な夜な電話したりすると思うんですよ、女性なら」種田をチラッと見て鈴木が言った。
「それはお前の女性像だ。全てがそうとは限らない」どちらにも偏らない熊田の振れない解答。
「そういうもんですかねー」あくびとともに力なく声を出した鈴木である。
「さあ、無駄口叩いてないでそろそろ出てくれよ」熊田は自ら率先して立ち上がり、出勤から仕事モードに気持ちを切り替えさせる。
「はい」3人の声が揃う。
「四栄出版はS市の中心部です」何も言わなくても種田は熊田と視線を交わしたただけで何が言いたいのかの理解が立つ。
「いくか」鈴木、相田のコンビよりも先に二人は本日の業務に出かけていった。
 四栄出版に車で40分のドライブでS市中心部、時計台を通過そのまま南下し開けた土地に高層のビルが勇壮と立つ目的地に到着した。熊田は迷うことなく地下の駐車場に車を滑り込ませた。警備員とのやり取りも慣れてもので、スペースの空いている場所に、車は迷うことなく止められる。エレベーターに乗り、12階へ移る。10階から12階が四栄出版のフロアである。
 受付で佐田あさ美を呼び出してもらう。彼女は昨夜に事情を聞いて解放されていたのだ、拘束力の強い証拠は鑑識からもたらされなかったことと彼女に逃亡や事件への関与は窺えないと判断したためである。解放の翌日にまた刑事が訪問しては彼女を疑っているとしか思えない状況ではあるが、熊田たちが訪れたのには昨日聞けなったある理由があったのだ。
 佐田あさ美は浮かない顔で受付へとやってくる。
「あの、見たことは昨日すべてお話しましたけど、まだ聞き忘れたことでもあるんですか?私忙しいんです」眉をハの字にして、多少語気を強めて彼女は訴えてきた。昨日は相当絞られたと見える。それに職場の人間からの視線も気にしての態度だろう。
「昨日は事情があって話せなかったことをお聞きしにきたのです」その言葉に違和感を覚えて、彼女は小首を傾げた。「ここでは話しづらいのでどこか別の場所で……」受付嬢の興味津々の視線を受けたままだったので、彼女は応接室のようなこぢんまりとした部屋に慌ただしく働く社員の脇を通り案内した。
 テーブルと向かい合わせの黒いソファだけの部屋である。閉じらたブラインドからはうっすらと光が差し込んでいる。出版社では個別の打ち合わせが頻繁であるからこういった小さな隔離された部屋が作られたのだろう、と熊田は似たようなこの部屋と同等のドアが部屋の入口に並んでいたことを思い返した。種田は佐田あさ美がお茶の用意のために部屋を出るとすっとソファに腰を下ろす。