コンテナガレージ

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重いと外に引っ張られる 3-3

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「お前は礼儀正しいのか行儀が悪いのかわからん」
「まずお前ではなくて、種田です。それに、礼儀とは形によって心が伴うのだとすれば、礼儀の学び始めにはただ教えられたように体を動かしているに過ぎない。だとしたら、相手を敬うなどの感情は持ち合わせていないと言えます。つまり……」
「ああ、いい、悪かった」言葉を途中でさえ切ると、佐田あさ美がトレーにコーヒーを載せて入ってきた。
「手短にお願いします、これから取材の予定がありますので」
「まず、証言では休憩のために国道から道を逸れてトンネルに繋がる道に入ったと、そうおっしゃった思うのですが」
「ええ、そうです」
「あの道は過去に通った経験がありますか?」
「ありません。何度か反対車線を走った時に、道があるのは知っていましたけど通ったことはありませんね」
「昨日になってあの道を選んだ理由は何でしょうか?休憩ならもっと別の場所でもよかったのではと思いましてね」
「あの道の正体を知りたくなったんです。おかしいと思われるかもしれませんけど、気になったら確かめずにはいられない質なので」
「急に思い立ったと?」 
「そうですね、あの質問ってこれだけですか?」あまりにも形式的であり、昨日との執拗な取り調べとの違いを見いだせない様子で佐田あさ美は尋ねた。
「もう一つ。通報してから警官が到着するまでは大体どのくらいの時間でしたか?」
「10分ぐらいだったと記憶してますが、正確な時間まではわかりません」疲れたような表情、頬は多少痩けたようであるが、元からの彼女を知らないので明言できない。
「あなたはトンネル内の車を外に出して脇に止めた。警察のパトカーはその後ろの止められていた」熊田の問に彼女は頷く。「警官がトンネル内で一人になった場面はありました?」
「最初はその遺体のようなものがある場所を教えるのに、一緒にトンネルに入りましたけど。私はあまり直視したくはなかったのですぐに出ましたから、その人は残っていたと思います」
「警官の到着後、もう一人スーツの刑事が来たのは何分ぐらいだったでしょう?」熊田はコーヒーには手を付けずに質問を投げかける。ゆらゆらとコーヒーの湯気だけが小さな部屋で動いている。
「さぁ……5、6分ぐらいだっと思います」熊田の顔はテーブルやもっと下の床に焦点が合うように角度が調節されている。種田は平然と話を聞く態度を捨てるようにせっせとコーヒーを冷まして彼女なりの適温を探していた。
「……あの警官が現場に到着するのが早かったように思うのです」唐突に熊田はしゃべり出す。「おかしくはありませんが、早すぎるのは多少引っかかるのです。佐田さんは通報の際に、正確な場所を伝えきれてはいない、これは通信センターに記憶されていた音声を聞きなおして判明したことです」情報班からの報告をより熊田が追求して問い詰めた結果、佐田あさ美の動揺から現場を特定する材料はトンネルぐらいであった。
「はぁ」
「我々は最後まであの現場に残っていました、鑑識や他の捜査員が帰ったあともしばらくはあの場に居続けました。それは、確かめたいことがあったからです」