コンテナガレージ

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重いと外に引っ張られる 3-6

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 佐田あさ美への容疑は今のところは黒からグレーへの変化具合で真っ白とまでは行かないのが現状。熊田は、じっと考え込んでいた。隣後方斜めを歩き、ついてくる種田が速度の一定で遅い熊田の歩きに文句も言わないで、はりついていた。エレベーターを待つ間も熊田は口を閉ざしていて、種田からは耳を塞いでいる姿がおぼろげに映る。駐車場に降りるときに、残したコーヒーの運命が気がかりとなる。失うと湧いてくる感情。駐車場の警備員とのやり取りも熊田はどこかおぼろげで、外面のいい愛想の良さ気な対応は鳴りを潜めて、ニコニコの警備員だけがどこか浮いて見えた。車の運転に多少不安を感じたが。思考と動作のバランス配分を変えたのか、信号や渋滞の隙間にだけ現実からいなくなる熊田であった。空からはうんと低くせり出した雲からモクモク天高く伸びる雲龍も散見される。窓からのぞく。昼のそよ風は、蒸した車内とのギャップによって簡易な冷却装置、早変わりで乱れる髪の心配などなんのその。たまに、こうしてだけど会話の要らない人が近くにいる時があって、その時だけは私はとても快適な可動を許される。言いたい時にだけ伝えて、答えが一言だとしても不足も充足も感じなく、そのままで受け入れられる。安定した私が相手や風、空と一体となりさすればいつもこうして笑顔でなくてもデフォルトでいてもらえる。長く続かないのは、隔絶された世界と私との距離がまだまだ遠くて本当は一つなのに、囲いの強固さを思い込みで増していて、壊そうとした時にはもう、カチンコチンで、何をしてもびくともしない。だから、こうして風化を待っている最中なのだ。何も言わないし、主張もない、あるがままを受け入れて、どんどん壁の傷を深くえぐる。壁は厚くトンネルように掘り進めている。車はどこへと向かうのか、上司は行く先を教えてはくれず、どんどん道をゆく。そのさなかには、高層ビルから低層の建物、マンション、工場、住宅、コンビニ、それに街路樹から、本来の生息地に生えているであろう森林が視界の大半を埋める。国道を逸れて工業地帯、角の工場と向かいの動物病院のあいだを曲がる。風が冷たい。種田は窓を閉めた。熊田がタバコを要求してこないのは集中している証拠だろうか、いつもなら、タバコを吸いながらでも考える姿が大半だろうに惰性で煙を吸っているのは、クッションの役目なのだ。つまりは、行動のきっかけにタバコが挟まれれて休憩や物思いにふけり、カウンターで難しそうな顔で酒を飲むのだ。
 見慣れた通りである。おそらくはあの店しかない、と種田は確信した。
「休憩ですか?」
「うん、まあ。タバコが吸いたくてね。ここじゃあ吸えない」
「我々は捜査をしています。よろしいのですか、他の人は働いています」
「同じ時間に同じだけ働けというは、まずもってすべての捜査員が同様の操作方法あるいは情報、立場、受けた指示が酷似している時だけに通じる。別にサボっているわけではない。ここへ来たのも、捜査の一貫であるし、不足の情報を補う可能性を秘めている」
「一般人に警察が頼ってもいいのですか?なめられます」
「事件の解決が第一だ。プライドなんて、遠の昔に捨てたよ」
「そうですか」
「反論しないのか?」駐車された車、体がブレーキで微かに揺れる。
「的を射ていると思いました」
「へえー、納得することもあるんだな」
「納得ではなくて、私の考えよりも熊田さんが言ったほうがより客観的だと判断したからです」