コンテナガレージ

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重いと外に引っ張られる 4-3

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 美弥都はエプロンで手を拭く時間に考えをまとめたようだ。「……わかりました。これから10分で私に仕事が発生しないか、店長が戻ってこないかの両方が満たされれば、お話を聞きます。ですが、急な仕事ができたらそこでお話は終了とします。よろしいですか?」
「はい、それで結構です」
「どうぞ」手のひらを返して、彼女は熊田に差し出す。腕を組み、まくられた白いシャツからほっそりとした種田のそれとは種類の異なる白い腕が見えた。
「他殺と思われる死体が三体発見されました。どれも別の場所で発見の日時も異なります。他殺だと断定しないのは、死体に不審な点が見られたためです。どの死体も致命傷となる傷は頭部を鈍器のような固いもので叩かれて負わされたと報告されていますが、最初の遺体には無数の傷、二件目は体内に胎児、三件目は遺体が使用済みのエンジンオイルを纏っていました。被害者に共通するモノ、人などは全く見当たらない状況で、捜査も行き詰まっています。今の話でなにか気づいたことがあったら、教えて欲しいのです」後ろで縛られない髪。真ん中で分けられた髪が左右から垂れて顔を覆う。首の角度はわずかに傾斜している。目は閉じ、上体は停止。木のようにスラリと立ちつつ、微動だにしない。お客である二人は美弥都の解答、言葉、返答を待っていた。
「思いつかないのなら無理に引っ張る必要はないです」種田がプレッシャーをかける。
「おい、なんてこと言うんだよ。ちょっと黙ってろ」熊田が慌てて種田を注意し、美弥都の言葉を待った。
「思いつかないなんて誰が言いました。すみません、考えるとどうしても動きが疎かになってしまって。それで、なんでしたか?ああ、そうですね。質問の答えですか。うーんと、警察はどのように犯人を探しているのでしょうか?まずそれをお聞きしたほうが的確にお答えできると思います」
「じゃあ、犯人がわかったのですか?」期待を込めた熊田の声。
「いいえ、まったくわかりません」
「ほら」
「ちょっと静かにコーヒーでも飲んでいろよ。答えてくれなくなるだろう」
「答えを知っているといったのに言えないのは、知らないと同じです」
「よろしいのですか?もうそろそろ5分が過ぎまずよ」
「ええっとですね、捜査は、早手美咲の母親に注目して当日の行動を洗いました。母親はその日、クライアントと約束のため、車で相手先の事務所で仕事を終えました。時刻は午後9時40頃で、翌日の午前中に娘の捜索願を自宅のあるS市ではなく、遺体が発見されたO市に提出しています。そして、仕事先へ向かった時の車はレンタカーでした。その日の朝に自家用車は壊れたそうです。それと、二件目の重田さちは、妊娠していましたが特定の恋人はいなかったようです。おそらく、本人も妊娠には気がついていなかったと我々は考えています。最後に、三件目の被害者ですが、身元はまだ分かっていません。所持品や身元を証明するものは何一つ身に着けてはいませんでした。現在、近隣の市町村の捜索願と照合しています。……ただし、体表面に付着していたエンジンオイルをかけた人物は見当がついています」
「待ってください。最後の、遺体を遺棄した人物つまりは犯人と遺体にオイルをかけた人物は別にいるということ?オイルをかけた人物の検討と殺害の検討は私の中では同一の人物による犯行と思うのです」美弥都の大きな目が二度三度またたく。
「気になることがあったので、鑑識や捜査員が現場から去ったあと、車に仕掛けたカメラによって見張りの警官が制服の下からトンネル脇の茂みに液体を捨てているのが映っていました」合間にコーヒーを飲む。口全体に苦味が広がる、入れたばかりなので酸味や渋みは程よい具合。「採取した液体は遺体に付着していた物と同様の成分が検出されました」
「あなたの口ぶりだとその警官は人を殺していないと言っています」
「ええ、確かに」
「理由は?」
「ただの勘です」
「私に何を聞きたいのでしょうか?あなたの直感を信じているなら、ここに来ることはないわ」
「この勘を論理的に説明して欲しいのです」
「……魔が差したのでしょうね」美弥都はふうと息を大きく吐いて天井を見て、二人に視線を戻していった。