コンテナガレージ

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重いと外に引っ張られる 5-2

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「お前、給料何に使ってる?」
「へ?なんだろう、そんなに高額な買い物はしませんから、それにカードもめったに使いませんし」
「貯金なんかしてないよな?」
「してますよ、そりゃあ、このご時世ですからね、公務員と言えども絶対はないですから」
「いつまたっても、お前は高額商品を買わないな」
「なんでです?車だって買いましたよ」
「ボーナスを貯めて一括で払ったんだろう?」
「えっ、なんでそれを、僕言いましたっけ……」
「言ってないが、それよりそっちの捜査は?」鈴木は口に運ぶ寸前で箸で掴んでいた麺をスープに沈める。
「あの質問をぶつけてみたんです」
 鈴木は早手美咲の勤務先の事務所を早朝から訪れていた。前回同様に、事務所の前に車を止めて出勤を待つスタイルである。駅に急ぎ歩く通勤、通学の人が通り過ぎる時間帯だ。事務所の向かい側は病院裏手の駐車場。歩道との境界の外枠は、金属パイプを組み合わせただけのシンプルな作り。パイプとパイプとのプラスチック接合部分の黄色が風雨でくすみクリーム色に変色していた。歩道に近い位置に一本の木。青々とした葉の成長は前回の時よりもその緑色が濃くなったように感じた。夜と朝では見え方も違うのかも、と別の考えも思いつく。
 事務所脇に車が入っていく。黒のセダン。早手美咲の車ではない。スーツ姿の男性が一人、建物を回って入り口のドアを引き階段を昇っていく。
 その数分後に見覚えのある車が現れた。白のセダン。前車と同じく、隣接する建物と隙間に車が消えるとしばらくして、ドアを閉める音にヒールのコツコツとした連続音。鈴木は車を降りている。
「早手さん!」彼女は引きつった表情から瞬間によそ向きの笑顔に早替え。しかし、鈴木はその代わり様を見逃さない。「朝早くにすみません」
「何だ、刑事さんですか。脅かさないでもらいたいわ」
「お時間よろしいですか?」
「無理よ。これからすぐに出なきゃならないの。それに、出勤前に来るなんてあなただって仕事前に来られたら嫌でしょう?悪いけど、時間がないの」ドアが半分開けられる。
「待ってください、大事なことなんです。娘さんの事件にあなたが関与していると思われてもいいですか?」道路を挟んで早手美咲が固まる。半身になり、鈴木を振り返る。顎を引き、睨むように声のする方へ琴線に触れたばかりの視線をぶつける。
「娘は殺されたんです!それでもういいです、これ以上蒸し返さないでください!私もう、忘れたいんです」住宅街に声が響く。
 コロコロと変わる天気が心境の変化に例えられる。
 これより先は入れませんと通せんぼ。
 背後に広がる空。
 白い雲が塞いでいた。