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重いと外に引っ張られる 5-3

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「娘さんの捜索願を出していますね、発見された日の翌日に」
「娘が帰ってこないことなんて今までなかったの。親が子供の心配をして当然でしょう、なにがいけないのよ」
「変ですよね」鈴木はわざと、間をとって先を急ごうとしない。相手がじれるのを待っている。本当はこんな駆け引きはしたくはない、もっと正攻法で仕事がしたい。一度、そんな自分に嫌気が差した。汚れていたけれどまともだと思っていた奥底まで、ひどく汚されたように仕事を続けていると感じていた。
 純粋であると、傷だらけになる。疲れる、休む、傷つく、疲れる、休む。この繰り返しで覚えたのが仕事だからと割り切ることで毎日を凌いでいた。けれど、まだ完全に分けられたわけではなく、今は感覚の麻痺による一時的な処置であるからいずれは痛みがぶり返すのだ。
 おいてきた自分の片割れを、とてつもなく正直な人で思い出す。
 いつも寡黙な人が大勢の前で恥じらいもなしに私を呼ぶ姿。
 失言でそれは触れてはならないことなのに笑って正直に肯定した人。
 明らかないじめを甘んじ受け入れたときの微笑。
「変?」左右を確かめると鈴木は悠然と彼女に接近。
「なぜ捜索願をS市に提出せずにO市に出したのですか?まるで遺体の場所を知っていたかのような行動です」
「別に他意はないわ、仕事の都合で近くに警察署があったら、出しに行ったのよ。どこに出しても警察なんだから変わらないでしょう」
「それに、年頃の女性が一日外泊しただけで捜索願は過保護すぎませんか?」
「……あなたの言い分はそれだけかしら。子供の頃に言われなかった?うちはうちって」真一文に引いた口が左右に伸びて、不敵な笑みを残し彼女は開きかけの透明なドアから階段をさっそうと上がっていた。